あらすじ
・とある夏、海の見える田舎の一軒家にフラリと現れ、住み着いた若い女性・貴瑚は、田舎の人々から「ワケありの女」と奇異な目で見られる生活を送っていました。
・心に深い傷を抱えるキコは、ある日、母親から虐待を受け、言葉を話せなくなった「ムシ」と呼ばれている少年に出逢います。
・自身も母親と義理父から、虐待を受け育ち、そこから救い出してもらった経験のあるキコは、なんとか少年を救い出したいと、奔走し始めるのでした。
まず、52ヘルツのクジラ・・・という本のタイトルが内容と、とてもマッチしていると感じました。
52ヘルツのクジラとは、他のクジラが聞き取れないような高い周波数で鳴く、世界で1頭だけのクジラだそうです。その為、仲間がどんなに近くにいても、決してその鳴き声は届かず、世界で1番孤独な存在です。
かつて、激しい虐待の中、助けを求める孤独な悲鳴を上げ続けて育ったキコと、今まさに、口を聞けない状態で、絶望を叫んでいる少年・・・。
こう書くと、ものすごく暗いだけのお話に聞こえますが、この本は、あまり暗いところにばかりフォーカスせずに、「如何にしてこの孤独から救われたか」が効果的に書かれているように思います。
そして、この物語には、「いい人」がたくさん出てきます。中でも、キコの大恩人である「アンさん」のことは、読んでで号泣でした・・・。
それと、私は夏が大好きなので、夏の情景の扱われ方が、とても上手で心が踊りました。
夕立前の蒸した匂いや、縁側で食べるアイス、クタクタになるまで、炎天下の中を歩いた後のビールに、庭でみんなで食べるバーベキュー。
入道雲の映える青空、大海原に浮かぶ1頭のクジラ。
そんな情景が見える、希望のお話でした。
次に読む本
夏の庭(湯本 香樹実 著)
・小学6年生の少年、木山・山下・川辺はひょんなことから、「人が死ぬ」ということに興味を持ちます。
・そして「死んだ人間を間近で見たい」という欲求から、街のはずれで一人暮らしをしている「死にそうな」爺さんの死ぬところを見届けようと、夏休みの間、観察をすることにしました。
・初めは、一方的な監視活動でしたが、いつしか存在がバレてしまい少年達と、孤独な老人の間には、交流が生まれます。
・死にそうだった老人は、生き生きとしだし、ひ弱だった少年達もまた、大きく変わっていきます。
・そして、夏が終わるころ・・・。
私が次に読む本として、紹介したいのは、夏の情景が思い浮かぶ作品として、私の中で外せないこの「夏の庭」です。
もう、何年も前の作品ですが、(初版は平成6年でした)色褪せず、今の子供たちが読んでも鮮明な輝きを放っていると思います。
「死」という、あらがえない絶対的なものに対して、「わからないから怖いんだ」と、答えを見つけだそうとする少年たちと、戦争を生き延びて心に大きな傷を負い、孤独に過ごすことを選んできた老人。
子供だからこそ、逃げようのない閉塞感を抱える少年たちと、ずっと生ける屍のように過ごしてきた老人が出会ったことにより、この年のお爺さんの家の庭はとても、優しく、眩く、皆んなを包み込んでいる、というような気分で読みました。
私がこの2冊を選んだポイントは、「夏の情景が目に浮かぶ」という点と、「魂の救済」の話である、という点です。
夏には、成長の切なさを感じる話がよく似合うと思っています。
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