あらすじ
本作は、戦国武将の松永久秀を描いた歴史小説「じんかん」を原作とするコミックスです。(「じんかん」は第163回直木賞候補/2020年にも選出)
第1巻では、将軍足利義輝の暗殺や東大寺焼き討ちなど日本史上の悪人とも形容される久秀の謎の多い幼少期が描かれています。 時は戦国時代半ばの1521年。 京都の稲荷山にて土砂降りの中、武士たちに売買対象の囚われの身として歩を進める久秀(当時の名は九兵衛)とその弟。 武士たちにぞんざいな仕打ちを受ける弟を体をはってかばったり、途中救ってくれた子供だけの夜盗団の根城でも警戒を怠らなかったりと、久秀はもともと心優しく知性がある人物として描かれています。 それは後の極悪人とは正反対のイメージ。 常に命を落とす危険に囲まれた戦国という時代を生き抜いていく過程でなぜ人道をはずすような行いをするに至ったのか、今後の展開と人間の心の変遷に好奇心が刺激されます。
大人も子供もいかに日々生き抜くかがすべてといってもいい戦国時代。そんな今の平和な日本とは似ても似つかない生活環境ですが、志をともにする仲間同士の絆は今と変わりないことにほっとします。 一方、身分や派閥が異なる者同士は自己の主義や利益のためにいとも簡単にだまし合いや殺し合いを行う暗黒面も、ある意味現在と変わらない人間のもつ一面だと思わされます。 こうした人間の両側面への揺れ動きに伴う動的緊迫感が、静かに美しく佇む京都の自然・建築・生活道具の中で浮き上がる様は見事です。
次に読む本
「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚 17巻~28巻」(和月 伸宏)
大政奉還や戊辰戦争を経て200年以上続いた江戸幕府が滅び、維新政府が新たな政治体制を確立していこうとする激動期。 剣術で人を殺すのではなく、人の心を育てていくことにシフトしていく動乱期において、立場の異なる者の信念がぶつかり合い、葛藤する様を少年漫画としてバトルエンターテイメントに昇華させた漫画作品です。 本作品17巻から最終巻となる28巻は「人誅編」として、2021年春上映の映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」の原作パートとなります。 主人公である緋村剣心が本作品中最も苦悩するシーンや、「人斬り抜刀斎」が不殺の誓いをたてて「剣心」となるまでのストーリーも描かれています。
これまで映画は鑑賞したものの、原作には手を出せていない方が多い作品と推測します。 作品への理解を深め、漫画と映画というメディア特性やIPのビジネスモデルを考える上でよい題材といえます。 ストーリー性を深く味わいたい方は特に原作漫画を読むことをおすすめしたいです。感動の源泉としての緩急の落差が原作では半端ないのです。
戦国時代、明治時代、そして現代資本主義。 表面上は全く異なる生活様式やテクノロジーのもとで成り立つ各時代ですが、抽象化した人間の行動原理は不変的な部分が大きく、らせん状に進化していく歴史のうねりを考えさせてくれます。 刀で人を斬ることはほとんどなくなった現代ですが、強者が弱者を、利権が有限な資源や倫理を食い尽くしていく構図は変わっていないですね。
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