あらすじ
日本が昭和から平成に年号が変わる頃、バッハのピアノを求め眞山は東ドイツに留学する。
音楽家の卵たちが集い、自身の為、また家族の為、国を背負って来ている留学生に混じり眞山はレッスンに励む。
それは命をかけたレッスンだった。
共産国の東ドイツ国内は貧しく、西への羨望を胸に秘めた者たちが現国政に不満を募らせる中、国内は国家保安省(シュタージ)が常に目を光らせていた。
誰がシュタージで誰が平民か、敵も味方も混在する東ドイツで、眞山は自分の音を求めて彷徨い、恋に落ち、成長していくが、眞山自身もシュタージに監視されていたのだった。

“思いもよらず巡り会えた傑作にしばらく放心状態となった”
文庫の帯に書かれていた、とある書店員のコメントだが、正にその通りだった。
壁一枚で東西に分断された社会圏の国DDR(東ドイツ)。
東ドイツの人間関係は
「密告するかしないか」。
この国の人間関係はこの二つしかないと言い放つ美しいオルガニストのクリスタは、将来を嘱望される程のオルガンの音を持ちながら、シュタージ(国家保安省)にマークされていた。
敵か味方かが分からない恐怖と
裏切りに遭った時の喪失感は、
人を人間不信に貶めるには十分だ。
だが、味方は必ずいるのだという安堵感と友情の温かさを感じさせてくれる。
残酷な歴史背景と音楽の美しさを併せ持つ読むべき一冊だと思う。
次に読む本
ラブカは静かに弓を持つ(安壇美緒)
中学の時の暗い記憶をいまだに抱え、孤独に生きている橘は、会社の命により音楽教室で潜入調査を行うことになる。期間は2年。
橘はここで、講師や仲間との心の通う関係を通して自らの心の傷を癒していくが…

老若男女や趣向の違い、育ちの違いで個々の価値観は全く異なるが、
「人間」であることは変わらない。
「人」はやはり「人」との交わりが必要なのだ。
「信頼」や「信用」ができない世界は地獄だと思う。
橘が命じられた職務である「潜入調査」はつまり「スパイ」だ。
表向きを繕いさえすればできる仕事だが、橘は相手に対して好意的感情が生まれてしまう。
音楽を奏でる歓びと騙す苦しさ。
映画を見ているようなハラハラ感があった。
おススメポイント

ベルリンの壁崩壊前のスパイと現代のスパイ。
騙される側と騙す側の苦しみは時代は異なれど変わらない。
音楽と人との関係もまた、変わることはない。
この二作は二作共、読む価値があると思う。
楽器を奏でる歓びを知っている方や、楽器に少しでも関心がある方は、きっと深みにハマるだろう。
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