あらすじ
耕一郎は、無職で酒ばかり飲んでいる父親と2人で暮らしている。
生活のために働きながら定時制高校に通っているが、ある日必死に貯めた8万円がなくなっていることに気づく。
8万円は父親がパチンコに使ったことが分かり、さらに父親から衝撃的なことを言われる。咄嗟に殺意を抱いた耕一郎は、父親を殴り倒し大雪の中に置き去りにしてしまい、逃亡生活を送ることとなる。
生活は苦しいもので、ついに耕一郎はホームレスになってしまうが、そこで様々な出会いと別れを経験し、成長していく。
父親を殺してしまったかもしれないという思いを抱えながら、ホームレスにまでなってしまった若者が、こうも逞しく環境に順応して前向きに生きていけるものなのだろうか。感心しつつも始めは若干の違和感を覚えながら読んでいたのだが、最後まで読み進めていくと全て腑に落ちた気がする。
耕一郎はホームレスになったとき、社会と呼ばれる向こう側の人々と自分との間に隔たりを感じ、普通の人の流れに乗れない自分を恥じていた。それでも周りを悪者にせずにまっすぐ生きようとする姿は魅力的だ。
親子であるが故に、そして特に親であるが故に素直に言えない言葉や想いがある。しかし懸命に生きる耕一郎を育てたのは紛れもなく父親であり、ラストは切なさこそあるが希望も垣間見える。
次に読む本
『雪の鉄樹』 遠田潤子
曽我造園の三代目の庭師である雅雪は、母親がおらず祖父と父からも関心を持たれることなく成長した。
過去のある事件により全身に火傷を負っている雅雪は、両親を赤ん坊の頃に亡くした少年・遼平の面倒を見ながら、1人の人を待ち続けていた。
冒頭から重苦しい雰囲気の小説で、過去に何があったのかなかなか明かされず、読んでいてもどかしい。しかし続きは気になるし、熱量すら感じる文章は一気に読み進めてしまう。
子供の頃から家庭内で無関心にさらされ、常に1人きりで食事をしていた雅雪は、誰かと一緒に食事をとることが出来ない。
庭師としての才能だけは祖父から認められていたが、それも仕事上の関係を築いただけだった。
子供にとって唯一安全で安心出来る場所であるべき家で、誰からも関心を持たれず何も教えてもらえずに生きて来た雅雪は、当たり前のことすら知らなかったりする。
過去のある事件の贖罪のために遼平の面倒を見続ける様子も、とにかく不器用なのがもどかしく、せつない。
それでも必死に生きていく様子が描かれ、ラストは希望に溢れている。
おススメポイント
父親と息子の確執を描いている2冊。
決していい父親とは言えない2人の父親が登場するが、どちらも根っからの悪人というわけではない。
親だからこそ息子に面と向かって言えない言葉があり、プライドもある。親子は本当に難しい。
それでもどちらの主人公もまっすぐな人間に育ち、必死に生きている。
ラストは切ないながらも暖かい気持ちになれる2冊なので、お勧めしたい。
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