あらすじ
のっぴきならない事態に追い込まれた菜々子さんは深夜のファミレスで自分の狭い人生に絶望する。 広い世界に出て、新しい自分になりたい。 たどりついたのはなぜか出会い系サイト。そこで出会った人にぴったりな一冊を紹介する、という活動をはじめる。 なかなかパンチの効いたキャラクターが多く、本をすすめるという自分の行為が喜んでもらえてるのか、はじめのうちは迷いも生じる。 でも、ほんとにすすめたいと思う人にぴったりの一冊をすすめたとき、これが自分の好きなことだと再確認する。
著者の自叙伝的小説で、人間味が生々しくて魅力的な一冊。 読書量が多いせいか、ヴィレッジヴァンガードというなかなか濃いめな職場環境で鍛えられたのか、言葉や表現の選び方が面白く、友達のおしゃべりを聞いてるような軽やかな語り口でスイスイ読めます。
冒頭では切羽詰まったかんじの気弱な印象だった菜々子さんが、本というツールを使って知らない人に立ち向かい、どんどんレベルアップしていく様はRPGのようでもあり…。 そして、出会った人におすすめする本も、なぜおすすめなのかや、その本の魅力が溢れる愛情で紹介されておりついつい読みたくなってしまうので、次に読む本に迷っている全ての人におすすめです。
次に読む本
絵に隠された記憶 熊沢アート診療所の謎解きカルテ (一色さゆり)
熊沢アート診療所に1人のインターンがやってくる。日向聡子。スクールカウンセラーを目指す大学院生。 絵画や粘土細工などの創作活動を通して心のケアを行う診療所の一員として利用者に誠実に向き合う中で、聡子はふとある疑問が思い浮かぶ。 私って、どこの幼稚園に行っていたっけ? 診療所を訪れる利用者ひとりひとりに過去があり色々な人生がある。絵画をきっかけに利用者の心のケアを手伝いながら、聡子自身の過去との対峙、成長の物語。
この作品を読んで一番に感じたのは、引越しの多かった我が家では、子供の頃の絵や作文などほとんど捨ててしまったことへの後悔でした。 専門的な知識がないながらも、人が表現したものにはその人の心が表れるだろうと、なんとなく感じるし、今になって見返してみたいなと思ってしまいます。 診療所の利用者一人一人のかかえている心の問題は深刻で、何より物語がすすむにつれ、聡子自身が自分の中で眠っていたものと向き合わなければならない。かかえているものがシビアでも、あたたかくふんわり包み込むような全体的な雰囲気が、優しい気持ちになれるあたたかみのある作品。
冒頭、聡子は熊沢アート診療所でのインターンとして、菜々子はXという謎の出会い系サイトで本をすすめるという新たな挑戦からスタートします。
友達も少なく、”普通の人”のコミュニティでは身の置き場がわからない、という自覚がある菜々子さんが、唯一昔から好きで自分の支えになってきた本を武器に、知らない人とコミュニケーションを試み、なおかつその人の心を読み解いてぴったりの一冊をおすすめするというのはある種のカウンセリングのようでもセラピーのようでもあり、天然でそれをやっちゃうってすごいなと思いました。 一方で聡子は、小学生時代に傷つけられる一言をなげつけられいじめに合ってしまう。内向的な性格のまま、中学生活も終える。 それを高校生になってできた友人が、真逆の言葉で聡子を褒めてくれる。 そのたった一言に聡子の人生は動かされ、もっとも苦手だった人間と向き合うと言う職業に興味を持つきっかけにもなる。 両者とも、利用者のために心を込めて行ったことが、むしろ自分自身を見つめ直すきっかけになっている。利用者と向き合うなかで、知らない自分が溢れてきて、ときには乗り越えないといけないときもあり、たくましくなっていくのが印象的。
どちらも物語のはじまりが最終の数ページにふわっと繋がる。そのときの2人の女性はふりだしに戻るのではなくて、強くレベルアップしての再出発。読後はあたたかい希望を感じる終わり方なのも良い。 ドタバタな菜々子さんの冒険譚のあと、優しくやわらかい聡子の話を聞くような感じで読むと楽しめると思います。
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