あらすじ
南北戦争の混乱の中、ひょんなことから地図に載ってない無人島にたどり着いた五人のアメリカ人たちと一匹の犬が、文字通り一から無人島に文明を築き上げていく物語。主人公たちは技師や水夫などのそれぞれの職業を生かし、ニトログリセリンの作成や製鉄、船の建造などを自前で行い、たった五人で島を文明化していきます。そしてラストではこの無人島と「海底二万里」との意外なつながりも明かされます。
作者が「一から始める無人島もの」に拘ったというだけあり、ナイフ一本持たない状態で無人島に放り出される主人公たちの境遇は、難破船の物資を利用できた「十五少年漂流記」や「ロビンソン・クルーソー」と比べはるかに過酷です。それでいて、それらの作品よりもはるかに文明的な生活(衣服の自作、小麦の栽培、ガラス窓付きの住居)を手に入れる主人公たちのバイタリティに驚かされます。島の開拓が技術的な面からも詳しく描かれるのもワクワクする要素の一つです。
次に読む本
漂流(吉村昭)
現在の鳥島に漂着し、十余年の歳月を経て故郷に帰った江戸時代の漁師たちの壮絶な無人島生活を描く、史実をもとにした作品です。最初のころは火を起こすこともできず、食料は生のアホウドリの肉だけ。仲間も次々と死んでいく中で、絶望と戦いながらなんとか生き延びようとする主人公の姿に胸をうたれます。
「何も物が無い」島での生活の過酷さがひしひしと伝わってくる作品です。船をつくるにも材料は時々漂着する流木に頼らざるを得ず、沖を漂う材木を手に入れるために凍死も覚悟で冬の海を泳ぐ場面は衝撃的でした。仲間の死により主人公が島に一人だけ残される場面もあり、全体を通して陰鬱な雰囲気が漂います。
正反対の印象を与える二つの無人島ものを選びました。「神秘の島」を読んで「所持品ゼロでも知恵と技術さえあれば快適な無人島生活がおくれる」という脳内お花畑な幻想を抱いた人には、是非とも「漂流」を読んで絶望の淵に叩き落されてほしいです(実際私がそうでした)最後まで技術と文明の力で問題を解決する「神秘の島」と、自然からお情けのようにもたらされる最低限の物資で命をつなぐ「漂流」には、作者の自然観の違いも表れているのではないかと思います。
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