あらすじ
仙台市内の連続放火。その側にグラフィティアートがある事に気づいた春は、遺伝子関係の仕事をしている兄の泉水と共に謎解きに乗り出す。やがてグラフィティアートと遺伝子のルールの秘密に近づいた兄は…。過去に辛い出来事があった家族の真実が今明らかになる。
「おまえは俺に似て、嘘が下手だ」父の言葉に呼吸が止まる。こんなに素敵な賞賛に値する父と美しく前向きな母に育てられたからこその春の葛藤と兄の思いが深い。それぞれに見えない重力を背負った家族が、お互いを思いやり、時には頼りそして当たり前のように愛する気持ちが溢れて胸が熱い。この本は悪の塊に立ち向かう本当の家族の物語だ。
個人的に、兄が弟に仙台銘菓を持たせ、仙台東ビジネスホテルの管理人に謝らせに行くシーンが微笑ましい。
次に読む本
『マリアビートル』 伊坂幸太郎
元アル中の引退した殺し屋「木村」は、幼い息子の仇に復讐するため、東京駅発盛岡行きの東北新幹線に乗る。がそこには、優等生面の14歳のサイコパス「王子」。腕利きの二人組「蜜柑」と「檸檬」。とにかく運が悪く気弱な殺し屋「天道中」が乗り合わせ…。疾走する「はやて」の車内で、追うものと追われるもの、狙うものと狙われるものが交差する。手に汗握るエンターテイメント。
本なのに頭の中に映像が流れ、息をつかせぬ面白さだ。出てくる殺し屋達はなぜか愛嬌があり、それぞれに人として魅力的に映る。だが、圧倒的な存在感を放つのは、サイコパス王子だ。いや、サイコパスよりも恐ろしい。相手の苦しみが理解できた上で相手の一番大切なものを傷つけるからだ。人の弱みを作りだし、思うがままに人を動かし、自分は手を下さない。怖くて誰も逆らうことが出来ない……。
そんな悪の塊に立ち向かう家族の愛が小気味良い。
ただ「蜜柑」と「檸檬」は残念でならない。
おススメポイント
「重力ピエロ」には他人を傷つける事に喜びを感じる葛城。「マリアビートル」には、集団心理と同調圧力を巧みに操る王子。どちらの本にも、人間の持つ悪意を体現し、恐ろしさの塊の様な悪人が存在感を放っている。そして「なぜ人を殺してはいけないんですか?」というキーワード。それぞれの本に答えが書いてあるのだが、おそらくこれに正解はない。だがどちらの本にも、無条件に守りたい者がいる人の心の強さと悪に立ち向かう勇気が描かれている。「神は1人1人の内にいる」改めて、自分に向き合いたくなる2冊である。
さらにこの伊坂幸太郎著の2冊はどちらも映画化されており、「重力ピエロ」は日本の静かな映画で、「マリアビートル」はハリウッドの動きのあるエンターテイメントだ。タイプは違うが、共に見応えのある映画である。本が先か?映画が先か?さてあなたは?
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