『渚のリーチ!』 黒沢咲の次に読む本は、『砂漠』伊坂幸太郎

あらすじ

当時、理工学部の大学二年生だった岡崎渚は、とある瞬間、恋に落ちた。四角い卓を囲んで、牌を引いて役を揃えていく、『麻雀』というゲームに。
その後、社会人として働きながらも、麻雀に明け暮れる日々を送る渚。そんな中、「プロにはならないの?」と周囲の人間からの後押しもあって、プロへの道を意識し始める。強い人達と戦える高揚感、一方で感じる不安や緊張を抱えながら、プロテストへの応募を決めた渚。彼女の、麻雀と共に歩む人生への挑戦が始まった―。

そーた
そーた

麻雀は、将棋や囲碁と同じく、頭脳を使って相手と戦いますが、運の要素が強いゲームです。どれだけ確率が高い道筋を選択しても、裏目を引いてくる、和了できないというのは、麻雀経験者であれば誰もが通る道ではないでしょうか。負けが込んでくると、焦って無理に鳴いて和了に向かおうとする、逆に相手のテンパイ気配に臆して手が縮こまってしまうというのも、自分自身の体験としてよくありました。

本作の岡崎渚は、そういう在り方とは対照的。ミスや敗北も踏み台にして、自分のスタイルを確立していきます。打ち方が非効率であるとか、セオリーではないとか、そんな事は関係なく、「自分自身が美しいと信じる麻雀を打つ」という信念を貫く姿勢には、凛々しさすら感じます。

彼女の信念が結実したのが、クライマックス、セミファイナル進出が掛かった対局の南四局。厳しい配牌、痛恨の裏目引き、そして相手からのリーチと厳しい展開が続く中、自分の打ち方を曲げずに逆転の一手を作り上げていく姿からは、緊張感や呼吸音さえ伝わってくる様で、思わず鳥肌が立ちました。

麻雀愛好家の方は、渚の麻雀への取り組み方に、きっと心が沸き立つものを感じると思います。是非、ご一読下さい。

次に読む本

『砂漠』伊坂幸太郎

大学に入学し、その新しい環境で出会った5人の男女。社会という『砂漠』に囲まれた、大学生活という名のオアシスで、彼らは自分自身の軽率さを悔やんだり、無力さに悩んだり、あるいは、共に経験した出来事を通じて互いの絆を深めながら、青春時代を過ごしていく―。

そーた
そーた

有り余るエネルギーや時間を持った大学生たちが、麻雀、ボウリング、海水浴、学園祭…等々、楽しそうな日々を過ごす姿に、こちらも嬉しい気持ちになってきます。大学生になると、行動範囲が一気に広がる様が、的確に描写されているなと感じました。充実した日々の中で、悔やみきれない出来事があったりもして、正直言って「軽率だな…」と苛々してしまいましたが、それでも危機に陥った者を助けよう、支えようとする姿には胸が熱くなりました。

仲良し5人のうち、最も印象強いのが西嶋。初登場時は、いきなり長演説を始める、失笑を禁じ得ない男でしたが、軸がブレない堂々とした姿と、稀に真理を突く鋭い台詞が相俟って、徐々にクセになってしまいました。彼の様に、序盤と終盤で好感度が180°変わってしまったキャラクターは、あまり例を見ません。

伊坂幸太郎先生らしい、読者を騙す仕掛けも施されています。終盤の『冬』の章にて、完璧にミスリードされていた事に気付きました。お見事。エピローグでの学長の挨拶も、思わずギクリとしてしまう鋭さがあり、「肝に銘じよう」と思いました。

楽しい事や辛い事、様々あったけど、掛け替えのない学生生活を想起させてくれる作品でした。

そーた
そーた

どちらの作品にも、麻雀がとても強い女性が登場します。面前手で高打点を叩き出すスタイルも類似しており、周囲の人間の度肝を抜く様が何とも痛快でした。




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