あらすじ
ストックホルムで女性の惨殺死体が発見された。彼女の交際相手は刑務所で服役中だったが、女性が殺された日は仮釈放中だったという。
警察は彼を容疑者としたが、ヴァネッサ警部は疑問を持ち、捜査を続ける。やがてヴァネッサ警部の元に彼の事件当夜のアリバイを証言する女性が現れる。
登場人物が多く、場面が目まぐるしく変わりながら物語が進んで行くが、テンポが良く楽しめた。
女性への暴力や路上生活者の悲惨な生活など、現実世界の社会問題が描かれるが、物語の中核をなしているのは”インセル“と呼ばれる女性嫌悪を抱く男性達だ。
初めて聞いた言葉だったが、彼らの心理描写が凄まじく、ページをめくる手が止まらなかった。
著者はスウェーデンの夕刊紙の記者を経て作家デビューを果たしている。本書には記者が多数登場するが、ジャーナリストとしての経験が生かされており、彼らの仕事ぶりにリアリティがあるのが良かった。
次に読む本
『警部ヴィスティング 悪意』 ヨルン・リーエル・ホルスト
2人の女性への暴行・殺人の罪で服役中のトム・ケルは、さらにもう1人の殺害を告白した。
彼はその被害者を遺棄した現場へ警察関係者を案内することになった。しかし彼はその場から逃走を成功させてしまう。この逃走は周到に準備されており、トム・ケルには共犯者がいるとされた。
目の前で犯罪者を逃がしてしまった警部ヴィスティングは、彼の行方を追う。
主人公ヴィスティングは、取り立てて特徴のない中年の警部である。本作はシリーズを通して、目立ったキャラクターが登場するわけではないし派手さもなく、警察が事件を追っていく様子が淡々と、しかし丁寧に描かれている。それでも全く退屈しないのは、元ノルウェー警察上級捜査官であったという著者の経験に基づき、捜査の様子に説得力があるからだと思う。
そしてジャーナリストである娘のリーネも登場し、捜査に関わっていくところも面白い。
ラストの「捕らえられなければならない犯罪者はまだいるのだから。まだ何人も」という一文が印象的だった。
いい意味で地味なキャラクターながら、ヴィスティングが犯罪者を決して許さず、正義に対する強い信念を持っているのが伝わった。
おススメポイント
この2冊の警察小説は、警察とジャーナリストの関わりが描かれる。時に対立してしまいそうな関係だが、犯罪を絶対に許さず、協力する様子が興味深い。
それぞれ著者が元ジャーナリストと元警官であるために、どちらもリアリティ溢れる内容となっている。
社会問題を小説の題材として取り上げることで、人々が様々なことを考え、議論するきっかけとなるのかもしれない。少しでも犯罪が減ってほしいという著者の願いが込められている気がする。
この2冊からは犯罪を絶対に許さないという強い意志が感じられる。
コメントを残す