あらすじ
日本に資本主義の仕組みをもたらした人です。永続的に富を増やしていく為の道徳的処世術や利殖技術を紹介しています。正しい道理のない欲望だけで得た富は、永続しません。富の価値は、所有者の人格で決まります。志を持ち、人格を備えた人々が、平等に適所適材で能力を発揮すれば、国家社会の富が増え、幸せをもたらすとしています。
欲望をコントロールして、道徳の心で富の創出を求めることは、周辺へのリスクを軽減させる経済効率の良いやり方でしょう。彼の撒いた資本主義の種で、豊かな中間層が誕生しましたが、今や没落が進行中です。彼も、ひそかに気付いていたのです。金儲けの欲望が先行し、思い通りに行かない道徳の退廃を嘆き、物質文明の危うさを見通していました。彼の心配が現実になっています。
次に読む本
人新世の「資本論」斎藤幸平
資本主義は、万人の使用できる富を収奪し、人々の生活を貧しくすることにより成長してきました。このシステムでは、全員が豊かになる事は不可能なのです。資本主義は、希少性を作り出し、格差によって成り立つ仕組みで、地球環境と大多数の労働者からの収奪システムで成り立っているからです。その実態を豊富な資料で説明しています。脱出するには、資本主義に代わる市民管理のコモンを広げ、脱成長せよと、貨幣経済は減少しますが、自由時間の拡大や余裕が生まれ、安定した豊かな生活が獲得できるとしています。
世界中がグローバリズムの流れに乗って、経済成長を金科玉条としているときに、経済成長の先行きに幸せはないとした勇気ある著書です。資本主義の仕組みが動けば動くほど資本家だけがぶくぶくと太り、多くの労働者は、搾取による貧困の悲鳴を上げるのです。この仕組みを変えない限り、生活不安は永続するのでしょう。それを解消させる方法として、権力の束縛から逃れ、平等に暮らすシステムつくりの発想は、マルクスを掘り起こしたという意味で、古くて斬新です。それには、資本主義の掲げる希少性という餌に釣られず、私たちの価値観を変える行動が求められているのです。
道徳を基盤とした資本主義は、人々の富を増やし、豊かで持続性のある生活をもたらすとしていましたが、現実は、道徳のブレーキが弱く、金儲けのアクセルを加速させ、欲望剥き出しのまま突っ走っています。資本は、地球環境を破壊し、大多数の人々から富を収奪し、生活を貧しくしています。渋沢氏が実践した豊かになる為の資本主義は、成長するにつれ人々を貧しくしているのです。この矛盾をどうするのか。その一考となる本をお薦めします。経済成長を前提とした資本主義下での諸政策では、現状は変えられないとして、資本主義に代わるシステムを数々の資料から導き、提案しているのが「人新世の資本論」です。
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