あらすじ
中学1年生の安西こころは、とある事情から学校に行けなくなってしまった。みんなが当たり前に学校へ行っている平日に家にこもっていると、罪悪感のようなものに支配され、自分がいけないことをしていると思うようになってくる。不登校の子どもたちが通う「心の教室」には通えそうと思っていたのに、やはり「心の教室」へ通う初日の朝は腹痛に襲われて行けなかった。そんなある日、こころは、家の鏡からある世界に入り込む。それは、「オオカミさま」がいる城で、こころと同じく不登校でそれぞれ悩みを抱えた中学生7人が集められていた。この城は何なのか?何故この7人が城に集められたのか?徐々に謎が明らかになるにつれ、こころの心も変化・成長していく。
中学生が主人公という事で、大人の自分に楽しめるか心配しましたが、あっという間に引き込まれました。城のルール、城で起こる事件とその解決、そもそもこの城は何なのか?この7人が集められた理由、7人が不登校となってしまった理由、7人が現実世界でどう歩みを進めて行こうと考えていくのか?など多くの謎が提示され、ミステリーとして読んでも良いし、主人公の心の成長記として読んでも良いと思います。
最初は、主人公は考えすぎ、気にしすぎで「もっと図太く考えなよ。」と歯がゆく感じたのですが、読み進むにつれ、中学時代の自分も、学校以外の世界の方が大きいとは知らずに学校内の人間関係に一喜一憂していたことを思い出させられました。思春期の女子特有の面倒くさい友人関係も似たような事を経験したことがあったことを思い出しました。すっかり忘れていたそんな感情を思い出させ、違和感なく読み進めさせる著者の表現に感心いたしました。また、大人の世界も中学生ほどむき出しではないけれど、同じような嫉妬やからかいの感情があって、自分でも気が付かないうちに誰かを傷つけてしまってはいないか?等考えさせられました。もちろんミステリーとしても良く出来ていて、謎が少しずつあきらかになっていくにつれ伏線が回収されて行き、最後はそうだったのかと腑に落ちて、楽しい気分で読み終えることが出来ると思います。
次に読む本
「インフルエンス」近藤史恵
大阪の団地で育った友梨は、小学2年生の時、同じ団地に住む幼馴染の里子が祖父と毎晩同じ布団で寝ていることを知る。その意味を理解できないまでも、自分の母や祖父の態度から、それが良くない事であり、母や祖父は里子と遊ぶことが好ましく思っていない事を察知し、里子となんとなく疎遠になってしまう。
中学生になり、里子の身に起きていたことの意味を理解していた友梨は、助けてあげられる事のできなかった罪悪感を抱きつつ、目立たず友達の少ない自分とは違い、可愛らしくクラスの中心にいる里子とは話すこともなくなっていた。一方、東京から同じ団地に引っ越してきた気品ある美人の真帆と親友となった。
そんなある日、団地内で真帆が痴漢に襲われ、真帆を助けようとした友梨は、その男の持っていた包丁で男の腹を刺してしまった。とっさに逃げた友梨と真帆だったが、その男を殺したとして警察に連れていかれたのは里子で、なぜか真実を話さずそのまま少年院へ行ってしまった。この事件から、友梨、里子、真帆の3人の秘密の関係が続くことになる。
友梨の罪悪感、親の意向をなんとなく感じてその通りに行動してしまう感じ、クラスの中心にいる里子への遠慮、真帆に感じる憧れなどは、身に覚えのある方が多いのではないでしょうか?また、友人と疎遠になったり、遠慮してしまったり、反対に依存してしまったり、未熟な中学生の人間関係が本当にリアルです。
友梨、里子、真帆の3人の関係も絶妙で、疎遠になり連絡を10年以上取らない時期でも心の中には住み続けています。性的虐待、いじめ、親の経済格差、夫からのDV、さらには殺人事件も起こり、波乱万丈な3人の人生ですが、小学校時代、中学校時代の友情が救いになっているように思いました。ミステリーとしても、なぜ里子が真実を告げずに少年院へ行ったのか?や、大人になってから起こる殺人事件の動機や経緯などが提示され、解明されるにつれ、色々な事が腑に落ちてきます。
どちらの本も、思春期の女の子の気持ちがものすごくリアルに描かれているミステリーです。思春期の女の子の友情というと、残酷や面倒くさいなどという印象があり、それはあながち間違っていないと思いますが、そんな中でも宝物にできるような友情を得ることがあると思い出させてくれます。ミステリーとしてももちろん面白く、ページをめくる手が止まらずに一気に読み進めてしまいます。
また、どちらの本も、救いのある終わり方になっていて、読み終えた後にほんのり温かい気持ちになれると思います。
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