人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する(マット・リドレー)の次に読む本

あらすじ

イノベーションとは、「世界のどこかで新たな慣行になる新しい手法や新しい製品」であると、著者はノーベル経済学者の言葉を引用して定義している。そしてエネルギー、公衆衛生、輸送、食料、ローテク、通信とコンピュータなどで起こったイノベーション事例を分析し、イノベーションは誰の手によってどのようなプロセスで発生したのかを解き明かしている。
結論はこうだ。
イノベーターの多くは蒸気機関におけるトーマス・ニューコメンのように教育を受けた科学者ではなかった。そしてイノベーションは自然淘汰に似たプロセスを通して人々が協力する中で起こる、段階的・漸進的・集積的な現象なのだ。

そら丸
そら丸

イノベーションと聞いて、イーロン・マスクやジェフ・ベゾスのような一人の英雄や、「ある閃きから」などの枕詞を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。しかし本書が緻密な歴史の分析を通して主張していることは、その対極に位置づけられるイノベーションの実態です。わたしたちの脳は、どうやらありのままを捉えるよりわかりやすく自分も想像力を飛躍させれば英雄になれると信じたいのかもしれません。

例えばキャスター付きスーツケースが発明されたのは、なんと人類が月面着陸した後の1970年代だとか。遡ること1920年代には似たような押して転がるカバンの特許は申請されていました。しかし実際に現在のようなハンドルを手にとって傾けて引きずるキャスター付きスーツケースがイノベーションを起こして普及したのは1980年代以降です。空の旅の需要拡大に伴う空港の規模拡大により、乗客の歩く距離が増加し、ノースウェスト航空パイロットが思いつきから機内持ち込み荷物の短辺片側に2個のキャスターをつけて斜めに引きづりだしたこととがきっかけでした。

イノベーションがブームですが、本書を読むことで気負うことなく絶え間ない試行錯誤、地道な改善、多様性のぶつかり合い、それらをもたらす自由な環境が大事であることがわかります。私一人がイノベーターとなるわけではないのです。

次に読む本

トリガー 人を動かす行動経済学26の切り口(楠本 和矢)

行動経済学とは、人間の非論理的な心理作用やそれに基づく判断を活用したアプローチを学ぶ学問です。行動経済学といえば、これまでダン・アリエリー教授の名著「予想どおりに不合理」などを通して知られていましたが、本書の特徴は、この行動経済学の研究成果をもとに、マーケティング施策のアイデアを創発することを目的に具体的事例を交えてわかりやすくまとめられている点です。マーケティング戦略・戦術ではフィリップ・コトラー教授によるSTPや4Pなどが有名ですが、そこで捨象されてしまっている観点がこの行動経済学に基づく人間的な視点なのです。好感認知、新規ニーズの創造、ストレス軽減、継続利用などのマーケティング上重要なトピックにおいて役立つ手法が具体的事例とともに26の切り口から紹介されており、マーケティングの実務家が実践できるとても有益な内容となっています。

そら丸
そら丸

人間の認識・行動は本当に危ういものだと思います。2021年になって携帯会社の値下げ合算が繰り広げられましたが、総務省のデータによれば毎月20GBも使っている人はわずか11.3%しかいないのに対して、42.8%の方が20GB以上の大容量プランに加入しているという実態があります。これこそ行動経済学でいう、非合理的な人間行動の典型例ですね。

本書には消費者として間違った選択を減らし、ビジネスマンとしてはより効果的なマーケティング施策を体系立てて考え、実行できるようになるヒントが多数書かれています。

そら丸
そら丸

食べるものには困らず、モノはあふれ、手元のスマホには日々あふれるばかりの情報が押し寄せています。このような環境下でマーケティングや事業開発に携わるビジネスマンにとって、「イノベーション」のメカニズムや人間の心を捉えて行動を促す手法につながる「行動経済学」の理論を深く理解しておくことは、必須の知見といえるのではないでしょうか。




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