あらすじ
あけぼの家政婦紹介組合から、私が家政婦として派遣されたのは元数学者である”博士”の住む離れ。雇い主は博士の義姉で、彼女は博士が1日80分しか記憶を保持していられないと説明した上で、博士の問題を母屋に持ち込むなと釘を刺す。
ある日シングルマザーの私が子どもを置いて仕事に出ていることを知った博士は、息子も連れてくるように言う。 数字にしか興味が無さそうな博士だが、私の息子を”√(ルート)”と呼んで可愛がることで、少しづつ私達と博士の日常が変わっていく。
本書は記憶の続かない”博士”と、彼が愛した世界について優しい目線で描かれています。小川洋子さん特有の静かな語り口がとても美しいです。 数学者にとって記憶が続かないということはどういうことだろう。博士は多くを語りませんが、”私”やルートから見える姿には、時々涙がにじみそうな切ないものがあります。でもそれは、2人が博士を愛おしく思っているからこそ。温かい気持ちになる一冊です。
次に読む本
『西の魔女が死んだ』梨木香歩
2年前、中学に上がってすぐに学校へ行けなくなってしまった”まい”。ママの提案でおばあちゃん宅で過ごすことになるが、おばあちゃんは魔女だと言って…? 自然に触れながら魔女修行をする少女の、優しい成長ストーリー。
物語は、まいが西の魔女ことおばあちゃんの元で過ごした時を思い出す、回想の形で進みます。学校を苦痛だと感じ心を閉ざしたまいは、少女らしい傷つきやすさと生意気さ潔癖さを持っています。 あぁ、確かに子どもの頃世界はこんな風に見えていた…と甘酸っぱい気持ちになりました。最後のおばあちゃんの優しさには、きっと涙するはず!
数学に疎い私からすると、数学って魔法みたいに感じます。なんせ謎の数式を用いて、目に見えない程小さな数字から宇宙規模の巨大な数字まで生み出してしまうんですから。 実際にファンタジーな魔法を使う訳ではありませんが、”博士”は確かに魔法使いでした。そして、”西の魔女”彼女もまた、人の心を溶かし成長を促す優しい魔法使いです。
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