ウォード博士の驚異の「動物行動学入門」 動物のひみつの次に読む本は

あらすじ

著者はシドニー大学の動物行動学教授。
彼は元々会社員だったが、ある研究者との出会いによって研究の道に進むこととなった。これは、他人と関わり合う人間の社会性がもたらした結果とも言える。
では、人間以外の動物たちはどのような社会的行動を取っているのか。その研究を通じてわかったこと、まだ不思議に思っていることなどが紹介されている。

この本一番のおすすめポイントは、文章の面白さとわかりやすさです。
訳者あとがきでは、「無味乾燥でない「体温」を感じる文章で書かれていて頭にも心にも入ってきやすい」とありました。
これは原文を読んでのコメントですが、翻訳文からもその体温は感じられるので、門外漢の私でも楽しく読めました。

「女王のために自爆するシロアリ」、「猫に罪をなすりつけるゴリラ」など、本の帯にある紹介文章だけでワクワクします。
動物関係の本を読んだりドキュメンタリーを見たりということは普段しないので、余計に新鮮な気持ちで夢中になれたのだと思います。

象の章で印象に残ったのは、例えばある象が死んでしまった時に、周りにいた仲間の象たちは死を悼んでいるかのような行動を取った話です。
それから、母象に拒絶され攻撃まで加えられようとしていた子象は精神的に傷付いてしまい、毛布をかぶって5時間泣き続けたという話もありました。

736ページという大ボリュームの本で、昆虫、魚、鳥、哺乳類など様々な生き物が紹介されています。
印象に残る部分は人によって違うはずなので、自分が興味を持てるのはどういうところなのか探しながら読んでみるのも楽しいと思いますよ。

次に読む本

ぼくの村がゾウに襲われるわけ。(岩井雪乃)

「アフリカゾウと住民の共存」をテーマに、研究やボランティア活動、NPO事業を展開している著者。
そんな著者が、タンザニアのセレンゲティ国立公園周辺への滞在といった実体験を通じて知った、野生動物の近くで暮らす現地住民の実情、これまでの歴史、国や世界の政策、共存への取り組みなどが紹介されている。

小学校高学年から中学生辺りの年齢層に向けた本という雰囲気はありますが、内容は非常に深いと思います。

国立公園は動物や自然を保護するための場所として、良いイメージを持っていました。
それ以前に、気付いた時には存在していたので、その成り立ちを考えようと思ったことすらなかったのです。
それが実は、本の中で紹介されているマニャニャじいさんの事例のように、人の強制的な移住を経た上で作り上げられたものだったとは…。
そうした視点で考えたことがなかったので、色々な意味でショックを受けました。
人間が象を殺すと大騒ぎになるのに、象が人間を殺してもニュースにもならないという話も、なんとも歪な感じがします。

国立公園などの保護区となった土地を追い出され、その周辺に住むようになったものの、今度は畑を襲う象の被害に悩まされる人々。
被害があるからといってその象を殺してしまうわけにもいかないのが難しいところです。

著者は我々ができることとして、問題の中身をよく知ることや、人間を一括りにして考えないこと、身近な日本の獣害問題について知ることを提案しています。
象との共存を願うことは簡単ですが、日本国内ですら猪や猿、更には熊による被害も後を絶たないことを考えると、実際には様々なハードルがあるのだなと気付くことができました。

おススメポイント

1冊目の『ウォード博士の驚異の「動物行動学入門」 動物のひみつ』では、動物の行動紹介だけではなく、環境問題や動物の未来、共存についての話も出てきます。
例えば象について、農地の作物が狙われてしまう問題が起きているとありました。
著者は、「他人の立場になってものを考えることも大切」と言っています。
象の保護は重要であるけれども、実際に象の近くで暮らしている農業従事者の気持ちも考慮すべきということです。

2冊目の『ぼくの村がゾウに襲われるわけ。』は、まさに象の近くで暮らしている村人視点の話が紹介されています。
ただ、象の被害を受けているのは、タンザニア内でも少数の人々です。
彼らよりも国立公園の運営資金などを援助する海外の援助機関の意向、つまり密猟の取り締まりや自然保護の意向が優先されて、場合によっては取り締まりアピールの犠牲にまでなっているとのことでした。

動物のことを学び、数の減少や絶滅を憂えてその保護を考えることは当然重要ですが、だからといって誰かを犠牲にしても良いとは思えません。
この2冊を読めば、動物と人間の共存について考える際に、偏った方向に進まずに済むのではないかと感じます。

1冊目の本を読んだ後はそのまま動物関連の本を読み進めるのも良いのですが、一度立ち止まって、野生動物の近くで暮らす人々の立場について知ってみるのはいかがでしょうか?




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