あらすじ
銀行から一億円が業務上横領された。犯人として指名手配されているのは主婦の梅澤梨花だった。
梅澤梨花は一体どのような人物なのだろうか。
一億円の使い道は?
なぜこの事件は起きたのか?
逃亡中の本人や、かつて梅澤梨花と同じ時間を過ごした人たちから探りながら、お金と人間の心理をつく。
お金で人の心をつなぎ、
お金を使うことでストレスを発散する。
とても虚しい行為だ。
人によって幸せの物差しは異なるが、
金銭で得られた美は、脆く虚しくすぐに破れる。
正に「紙の月」だ。
主人公の梨花は、女子校育ちの専業主婦で、
常に一歩下がって歩くような女性だった。人の目や夫の顔を気にして生きており、夫もそんな妻だからこそ妻を思いやることはない。
そして、狂い始めた歯車が取り返しのつかない状態に陥った時には、梨花は別人となり、でも何故か根拠のない自信を持っていた。
その自信は一体どこから来るのかと考えた時、
「もう引き返せないからだ」と思い至った。
歴史上にも多く存在した、表舞台から引き下ろされた人々の心境と大して変わらないのではないか。
もう自分の力ではどうにも制御することができない状態まで梨花は行き着いてしまっていたのだ。
梨花だけではない
昔、少しの関わりがあった梨花の知人たちもまた、様々な要因で不満を溜めて、一時の自己満足のために浪費していく。
でも彼ら、彼女らは行き着く前にストップがかかる。
そこには、人が誰しも抱いたことのあると思われる感情があった。
誰しもが紙一重で、梨花になったりならなかったりするのだと思った。
次に読む本
「正欲」(朝井りょう)
「正欲」は接点のない数名の人物が各章の語りべになり話が進んでいくオムニバス形式で描かれており、最終話に至っても僅かな接点があるのみで最後までお互いに他人のままで物語がすすむ。
「LGBTQ」というテーマを
マイノリティ側とソフトマジョリティ、マジョリティ側とソフトマジョリティからの見解をオムニバスで語っている。
解決の糸口が見つからない、社会派小説。
異端者を生み出すグループ意識は、太古の昔から人間に備わっていた人間の心理だ。
マイノリティの問題は奥も深いが幅も広い。
多文化共生と謳いながらも、外国人に偏見を持つ日本人も多いが、これも同種の問題だろう。
グループ意識を拭い去ることは本当に難しい。
深く考えずに「まいっか」と言い
「どうにかなるさ」と思いつつ
「ケセラセラ」と笑うくらいの余裕が持てれば
良いけれど…
普段、あまり気にならなかった事を考える良いきっかけになったと思う。
おススメポイント
どちらの作品も、個人名が目次となったおり、それぞれの個人が語り手になっている
オムニバス形式だという共通点があるので、読み比べができると思う。
また、「犯罪」と「LGBTQ」と全く異なる領域である為、自身がそれぞれの問題を如何にとらえているのかを認識させられる。
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