『すべての見えない光』 アンソニー・ドーアの次に読む本は

あらすじ

マリー・ロールは幼い頃から目が見えず、パリの博物館で働く父と2人で暮らしている。
ヴェルナーは孤児院で妹と共に育ち、ドイツの教育学校を経て、ナチスの技術兵となる。
物語は2人の人生を交互に辿っていく。
やがてフランスのサン・マロという街で、2人の運命が交差する。

ゆめこ

まるで長い詩を読んでいるかのような小説。
戦争に巻き込まれたマリー・ロールとヴェルナーの成長を、周りの人々との交流を交えながら丁寧に描いている。
目の見えないマリー・ロールの想像の中では、全てに色がある。中でも、彼女の優しい父親は千の光を放っているという一文が印象的だった。
題名の『すべての見えない光』とは、物語に登場する「伝説のダイヤモンド」と呼ばれる宝石や、目に見えない電波が飛び交う無線交信、そして盲目のマリー・ロールの想像の中で放たれる色の輝きを指しているのだろう。

マリー・ロールとヴェルナーのエピソードが交互に描かれていくのだが、時系列はバラバラである。少し疑問を抱きながらも読み進めると、2人がサン・マロで束の間出会う場面で全ての意味が繋がった。

戦争の残酷さは容赦なく描かれるし、読者である自身の淡い期待が裏切られる悲しい場面もある。しかし登場人物たちの優しさに満ちたセリフや、どんな過酷な状況でも生き抜こうとするマリー・ロールの逞しさやヴェルナーの優しさが心に響く作品。
戦争についてだけでなく、自然の美しさや登場人物たちの人間らしさと強さ、そして2人を繋ぐラジオや無線といった科学の力など、様々な要素が重なり合い、物語に奥行きをもたらしている。

次に読む本

『アウシュヴィッツの図書係』 アントニオ・G・イトゥルベ

アウシュヴィッツ強制収容所内の家族収容所には、子供達のための学校が存在していた。
そこにはたった8冊の本だけを持つ図書館があった。
ナチスに本の所持を禁じられていた中、14歳のユダヤ人の少女ディタは、その8冊の本が見つからないよう隠し持つ図書係に任命される。
本を愛し命懸けで守った少女の実話に基づく物語。

ゆめこ

今までアウシュヴィッツに関する本は読んだことはあるが、本作は特に感情移入してしまい、最後の方は読むのが辛かった。
14歳の少女の目線で、彼女が対峙した恐怖や怒り、悲しみが生々しく描かれる。しかし時にアウシュヴィッツにいることを忘れてしまうような、ごく普通の14歳の少女が友達と交わす楽しげな会話なども描かれ、やるせない気持ちになった。

人類の歴史において、独裁者達は本を徹底して迫害する。文中に、「本はとても危険だ。ものを考えることを促すからだ」という箇所があり、妙に納得させられたが、たった8冊の本を守り、学び考え、希望を持ち続けた人達がいたことを思うと、本の偉大さを改めて思い知った。
全ての自由が奪われた中で、「私たちに残されているのは想像することだけなんです」というディタのセリフが心に残った。

おススメポイント

ゆめこ

どちらも第二次世界大戦という辛い時代を生き抜いた少女の物語。
彼女達が最後まで希望を持ち続けられたのは、想像力のおかげだった。
マリー・ロールは盲目だが、海の音を聞き、貝殻に触れ、『海底2万マイル』を点字で読み、想像に浸って過ごした。
ディタは手元にある8冊の本に加え、昔読んだ小説を思い出し、同じく想像の世界に浸って束の間苦しさから逃れた。

この2冊は戦争の残酷さや理不尽さを訴えるものだが、同時に、現実とは思えないような悲惨な世界でも、希望を持って逞しく生き抜いた人達がいたことを教えてくれる。人間の強さも訴えるものである。




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