あらすじ
憧れの出版社である文林館のファッション誌を担当していた明日花は、ある日突然不本意ながら学年誌創刊百年企画チームに異動させられる。
そこで学年誌の歴史を調べるうち、祖母が戦時中に文林館で働いていたことを知る。
物語は明日花が働く令和と、祖母が働いていた戦時中と交互に展開していく。
女性が働くということ、子供の人権、戦争など、話は多岐に渡り、出版社を舞台に情熱を持って生きる人達の物語。
自分も幼い頃読んでいた学年誌だが、それを作った人達があんなにも子供のことを考え、情熱を持って取り組んでいたことに胸を打たれた。
祖母のスエが働いていた時代は第二次世界大戦真っ只中で、学年誌にまで文豪達がこぞって子供達を戦争に駆り立てる内容のものを書いていたという。しかし戦争に負けた途端に内容が変わったということに驚いた。
世の中の風潮というものはいかに移ろいやすく、脆いものであるか思い知らされるし、恐ろしくもある。それは今の時代と何ら変わりない。
戦争と聞くとどうしても辛く悲惨な場面ばかりを想像してしまうが、この小説は苦しみや悲しみだけでなく、人と人との触れ合いや友情なども描き、この時代を違う角度からも眺められる。
ラストの女性達が強かに逞しく生きてきた様子が描かれる場面は何とも清々しく、胸が熱くなった。
祖母と母と娘それぞれの生き様や想い、女性が働くことに伴う苦労、そして女性と子供の近代化が描かれ、読み応えのある作品。
次に読む本
『卵をめぐる祖父の戦争』デイヴィッド•ベニオフ
作家のデイヴィッドが、祖父レフが若い頃に経験した戦時下の冒険について取材する形で物語は始まる。
レフは食糧難にも関わらず、軍の大佐の娘の結婚式のために、青年兵コーリャと共に卵を調達することを命じられる。
レニングラード包囲戦の最中、卵を求める2人の道中の様々な冒険を描いた物語。
いつドイツ兵に捕まるかも分からない危険な状況の中、日々の食事もままならず飢えている若者を前に、自分の娘の結婚式のケーキを作るために卵が必要だと言ってのける大佐の命令に、若者2人は従わざるを得ない。
また、家も家族も失い、ドイツ兵に捕らえられている少女達は逃げることも出来ず、ただ諦めて生きている。
こういった戦争の理不尽さや残酷さを容赦なく描いているにも関わらず、お喋りで陽気なコーリャとの軽快な会話が何とも小気味よく、時折挟まれる文学や音楽の話も束の間戦争を忘れさせてくれる。
どんな状況にあっても、友の存在はほっとするひと時や小さな喜びをもたらしてくれるものだと思う。
戦争の悲惨さを訴えるだけでなく、友情や冒険的要素も合わせ持つ素晴らしい小説。
おススメポイント
日本とソ連と舞台は違えど、どちらの作品も第二次世界大戦の時代を描いており、それぞれ孫が祖父母の若い頃の体験を知るという形で物語が展開していく。
2冊とも戦争の残酷さを描く一方で、人と人との温かい交流や友情を描いている点も共通している。戦争の悲惨な状況にあっても、彼らには戦争とは切り離した日常があり、そこには小さな幸せや喜びが存在する。夢や目標もある。
若者の純粋さや一途さも描かれているが、自分の国が必ず勝つと信じ、国の掲げる大義を信じていたことは何ともやるせない。
当然人は1人では生きられない。どんな過酷な状況でも友の存在が心休まるひと時を与え、生きる糧となり得ることをこの2冊が教えてくれる。
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