あらすじ
独りで生きるつもりで訪れた海辺の町で、主人公は自分と同じ匂いのする少年に出会う。
家族に愛されず、孤独の淵でさまよいながら生きていた主人公。わずかな時間よりどころとなってくれた人たちとも思わぬ別離がやってくる。
みずから手放したもの、どんな自分であろうとも離れていかないもの。
少年に出会ったことで、主人公の生き方や心情にもやがて変化が訪れる。
孤独に生きる人々の”声にならない声”を特殊なクジラの鳴き声に見立て、静かな海辺の田舎町の情景が浮かんでくるような美しいストーリーでした。
登場人物たちは深刻な悩みを抱えながらも、誰かを大切に思い、恋をしていて、さまざまな愛のカタチで表現されているのが印象的でした。切なく苦しい話ではあるものの、主人公の希望が感じられるようなラストになっています。
次に読む本
斜陽(太宰治)
没落貴族の悲哀を描いた作品。
世間知らずの美しい母と、母よりは少しだけ逞しいけど、やはりふわふわな娘、庶民の逞しさへの憧れと貴族への嫌悪でがんじがらめになり破滅へと向かう弟。
傾きかけた自分たちを意識しつつ、それぞれの生を全うする物語。
衰えていく様がなぜか美しく、品と色気を感じました。
地に足のつかない浮世離れした家族の”おままごとのような”生活は現代の作品で表現しづらいように思われ、独特の世界観に惹き込まれる作品です。
親と子の関係、主に母親が与えた影響により子の人生が左右されてしまう物語。
他の兄弟へ対する母親の愛情にストレスをかかえたせいか、依存とも執着とも言える恋心に夢中になってしまう主人公や、報われない恋と決めつけて自分で自分に決着をつけてしまう登場人物など、どちらも刹那的な人物が印象的。
主人公たちは守るべき人のために強く歩み出すけど、最後まで退廃的な斜陽に対して、52ヘルツのクジラたちは”暁”といったところかな。と思います。
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