あらすじ
建築デザイナーの一登と、編集関係の仕事を在宅で行う妻貴代美、モデルルームとして依頼主に紹介できるほどのおしゃれな家で二人の子供と暮らす石川家。
ある夜親戚から電話がかかってくる。
一登らが住む街で気味の悪い殺人事件が起こったというのだ。まさか自分の息子が関わっているなどとは思えないが、当の息子は外泊したまま音信不通。一登は半信半疑で警察に連絡をしてみることにーー。
どちらかと言えば恵まれた生活をおくっていた石川家だったが、息子が事件に巻き込まれたことであっという間に平穏を失う。先が気になりついつい次のページをめくってしまう!ほんとに一気読みミステリ!
むずかしい年頃に悩ませられながらも”ふつうの子”であって欲しい気持ちは一登も貴代美も同じ。
一登は息子の正義を信じたい。
貴代美はただ生きていて欲しい。
事件の状況から、犯人か、被害者か、どちらか究極の二択の未来しか待っていない中で、もし自分がこの立場におかれたら…と答えの出ない二択がぐいぐい迫ってきてぐったりしました。
時間の経過とともに、夫婦が未来を想像することよりも現実をただただ受け入れていく心境に変化していくところなども面白い作品でした。
次に読む本
スクラップ・アンド・ビルド(羽田圭介)
健斗は介護が必要になり五人の子供の家を転々としてきた祖父と母親との3人暮し。激務だったカーディーラーを退職した後は、中途採用試験にも落ち続け、家に生活費を入れないかわりに家庭内での孝行係たるポジションを獲得する。
身体の不調や弱音ばかりを吐き、最後の決め台詞「じいちゃんははよう死んだらよか」を繰り返し聞いてるうちに健斗はあることに気づく。
“死にたい、というぼやきを、言葉どおりに理解する真摯な態度が欠けていた”
健斗はその日から、究極の自発的尊厳死の手伝いに没頭していく。
老人介護や就職難など、深刻になりがちな内容を淡々と、とも飄々と、とも言える雰囲気で書かれているのが著者のイメージと重なって面白い。
祖父の死が家族みんなにとって幸せな形だと本当に信じ尊厳死の手伝いに没頭したり、衰え続ける祖父と相反して自身の筋トレに励み、使わない機能は衰えるをモットーに性行為までもストイックに己に課してるあたりが、ちょっとズレてるけど真面目な優しい青年だ、とか読み進めているうちに健斗のキャラクターがだんだん実体化されていくようだった。
雰囲気も内容もだいぶん違うけど、二作品とも家族をテーマに書かれており、家族に翻弄される人物の心情を書いた作品です。
まったく異なる作品でありながら”家族の尊厳を守ろうとするとそれがつまり死を意味する”ということが共通していて面白く感じました。
他人ではないが自分でもない、家族というのはある意味不思議な存在で、わかっているようで知らない顔も持っていたりするんですよね。
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