あらすじ
『第1感』や『天才!』などのベストセラーで知られる コラムニスト 、マルコム・グラッドウェルによる「見知らぬ相手を理解することの難しさ」をテーマにしたノンフィクションです。
まるでミステリのように、ある一つの事件の謎を提示した後に、その手掛かりとなる多くのエピソードを次々に示して伏線を張り、最終的に全ての伏線が回収され謎が解き明かされるという仕掛けが施されています。その事件とは、
サンドラ・ブラントという若いアフリカ系アメリカ人の女性が、車を運転中に警察官に止められたことから始まります。軽微な違反であったにも関わらず、彼女は逮捕され、3日後に独房で自殺を図りました。なぜ彼女は死ななければならなかったのでしょうか?
著者は、この悲劇の根っこは、「見知らぬ相手を理解することの難しさ」という私たちの誰もが抱える問題にあるのだと言います。
この本では、はじめにサンドラ・ブラントの死という謎を解くための鍵となる様々なエピソードを提示し伏線を張っていきます。そして最後の章では、それらの伏線が見事に回収され、全てのパズルのピースがはまるように真相が浮かび上がるミステリ小説のような仕上がりになっています。
次に読む本
『イノセント・デイズ 』(早見和真)
この物語は、田中幸乃という三十歳の女性が、元恋人の家に放火して妻と一歳の双子を殺めた罪により死刑を宣告されるシーンから始まります。
判決が確定してしまえば死刑となってしまうにも関わらず、彼女は控訴しません。恵まれない生い立ちながら、途中までは幸せそうに暮らしていた彼女は、なぜ死刑判決を受けることになったのか?
この作品では、「覚悟のない十七歳の母のもと―」、「中学時代には強盗致傷事件を―」、「罪なき過去の交際相手を―」など、判決文で読まれた文言に対応する各章で、産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人など彼女の人生に関わった様々な人物の始点から、彼女の人生を捉えなおします。そこには、報道や裁判で語られたイメージとは異なるあまりにも哀しい真実があり……
多くの読者に衝撃を与えたミステリ作品です。
『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ 』は、
はじめにサンドラ・ブラントの死という謎を提示し、「見知らぬ相手を理解することの難しさ」というテーマを軸に、様々なエピソードを提示することで、徐々に真実が明らかになるミステリ作品のような手法で読者の興味を引き付けます。
この本を最後まで読んだ読者なら、もうサンドラ・ブラントの事件や、他のアメリカで起こる警官とアフリカ系アメリカ人絡みの事件及びそれに抗議するデモが、単なる人種差別の問題ではないことがわかると思います。
『イノセント・デイズ 』も、はじめに、
田中幸乃がなぜ死刑判決を受けるに至ったのか?という謎を提示し、その後に彼女の人生を追跡することで真実が明らかになるという構成をとっています。
また、『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ 』が鳴らす警鐘は、私たちは他人を単純化して捉えすぎるという点です。
『イノセント・デイズ 』で、マスコミの報道や裁判での証言で作り上げられた田中幸乃のイメージは、
「よく知らない人」に対するものであるが故に単純化されたイメージです。それは実際の田中幸乃とは大きく異なるものでした。
両作品は、世間のイメージと内面とが一致しない人に対して、どう接するかを考えるきっかけとなると思います。
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