あらすじ
安土桃山時代。天下統一をほぼ成し遂げた豊臣秀吉の優秀な配下である、石田三成・増田長盛・浅野長政・前田玄以・長束正家の五奉行を中心とした短編集。
合戦で刀や槍を持つことはないが、軍の兵站や各地の米収入管理などに奮闘する奉行衆。
前線で血みどろになって戦う武断派に白い目で見られながらも、類まれなる知性をもって豊臣家の裏側を支える五人だが、豊臣家の内側外側から次々と難問が押し寄せる。

決して仲は良くない五人の奉行たちが主役だが、地味さはなく、各奉行の魅力が全章で躍動している。
明らかに若き日の聡明さを失い、わがままに老いてきた豊臣秀吉。
その秀吉の命ずる無理難題に五人で頭を抱えるが、そこに感じるのは偏屈に老いた独裁者からの罰を恐れているというよりも、かつて心から尊敬し、武働きとは違う畑の自分の才を見出し、重用してくれた父親のような存在をもう一度笑顔にさせたいという温かみだ。
五奉行以外にも、輝きや嫌らしさを多分に抱えた人物たちが数多く登場するが、その人物の動かし方が巧みである。
特に豊臣家崩壊の種を静かに、そして巧妙に蒔く徳川家康と、病さえなければ六奉行ともなり得た大谷吉継の存在が物語の厚みとなっている。
あえて後の関ケ原合戦での姿に全く触れない所も著者のこだわりだろうか。
秀吉からの難題を血のにじむような思いでクリアするが、豊臣家の威信が保たれたと感じるよりも、この政権の終わりの始まりがまた一歩近づいた…という物悲しさの方が強い。
大きな合戦シーンは出てこないが、戦国時代を舞台とした他の小説よりも、登場人物たちの命がけの緊張感がヒリヒリと伝わってくる。
頭脳明晰ではあるものの、あまり世渡り上手とは言えない不器用な文官たちを応援したくなるほど魅力的に描き、章によってはミステリ要素まで盛り込んだ楽しい作品だった。
物語の最後で意味のわかる『五葉のまつり』というタイトルも、この本を見事に表している。
巨編ではあるが、その長さを感じさせない歴史小説の傑作。
次に読む本
『大谷吉継の終わらない関ケ原』(白蔵盈太)
「天下分け目」と言われる関ケ原合戦において寡兵ながら善戦するも、味方の裏切りに遭い、敗れ自害した大谷刑部少輔吉継。
切腹して果てたはずの吉継に対し再び関ケ原合戦前に戻り、勝利することを命じるデウス。
あの武将が裏切らなければ…。あの家の意思統一がなされていれば…。味方同士の信頼関係がもっと強固であったなら…。と吉継は奔走する。
敗因を分析し、それを排除しながら関ケ原に何度も挑む吉継は兄のように慕う盟友の石田三成と共に大合戦勝利の栄光を掴むことはできるのか。
全く新しい形の歴史IF小説。

もし、この時の歴史にこんな動きがあったなら、結果はどう変わっていただろう?…という「もしも」の歴史を描いた小説は過去にもあった。
しかし、この作品では、その「もしも」の結果を踏まえ、複数回のやり直しができるというおもしろさが加わる。
前回の関ケ原で大軍を擁しながらも静観を決め込んだ家を変化させ、戦意を上げさせたので、今回は勝てると確信したはずなのに、数的に優位に立つと前回決死の戦いぶりを見せた家の軍がが全く消極的になってしまったり、西軍内部での主導権争いが勃発して連携がズタズタになったりしてしまう。
物語の中で大谷吉継が「合戦は生き物だ」という通りの戦争のリアリティを強く感じさせる。
大谷吉継の深謀遠慮を描きながらも、どんなシチュエーションであっても、それに対応してくる百戦錬磨の徳川家康の底力を浮き彫りにもしている。
単なる関ケ原合戦を舞台にしたタイムループの小説にとどまることなく、大谷吉継の目を通して、どこに豊臣政権の綻びの始まりがあったのかを深く考えさせる挑戦的な歴史小説とも言えるだろう。
最終章で吉継が導き出した結論には本格的な歴史小説好きも、読み飛ばすことのできない重みがある。
歴史における「結果」というものは、分かりやすく見える原因を取り除けば変わるものではなく、細かく根を張った数え切れない原因がその「結果」を生んでいることに気づかされる。
ユーモラスな描写も多く、楽しく読み進められるが、それだけに収まらない重厚さも併せ持つ作品だ。
おススメポイント

「大坂の陣」で豊臣家が完全に滅亡する以前から、豊臣の世の命運を表していた予兆は数多くあった。
『五葉のまつり』で奉行たちが必死に国内の安寧を保とうとするが、それと同じ時に豊臣の大軍は朝鮮へと渡っている。
朝鮮で悪戦苦闘している武断派と日本国内にいる文治派の対立はもはや修復不可能な状態にまで悪化。
その両派の仲をどうにか繋ぎ止めているカリスマ豊臣秀吉の隠せない衰えと後継者たる豊臣秀頼の幼さ。
例え徳川家康という人物がいなくても、別の何者かが次の世を担うべく登場してきただろう。
しかし、そんな沈みゆく船のような中にあって、自分の成し得る限界まで力を尽くす人々の清々しさが際立つ。
『大谷吉継の終わらない関ケ原』の中で大谷吉継が勝たせたいと思う人々の魅力がどちらの作品でも輝いている。
【判官贔屓】のひと言で片づけることも容易いが、その才で天下人にまで駆け上がった豊臣秀吉とその秀吉に魅せられ、秀吉が作った世を護ろうとした愚直な秀才たちの奮闘を味わっていただきたい。
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