『ある修道士の自罪』著者:祇光瞭咲の次に読む本は

あらすじ

聖バシリオ精神病棟の慰問をしていた修道士が死を迎え、新たに迎えられた修道士に、先の修道士が書き続けていた日誌を渡される。
その日誌には先代の修道士がこの精神病棟で体験した、おぞましい出来事の連続が記され、やがてその修道士も謎の死を迎えていたことが明らかになる。
この聖バシリオ精神病棟に何が棲み着いているのか。
神の教えを胸に、修道士たちは祈りと救いを病棟の患者たちに届けようと奮闘する。
1900年初頭のイタリアを舞台にしたゴシックホラー小説。

1900年頃のイタリア、聖バシリオ精神病棟の患者を慰問するトマゾ修道士が書いた日誌を読み進めるように物語は進む。
病棟で生活する多様な患者たちに対し、その悩みや苦しみに熱意を持って対面し、救いの手助けをするトマゾ。
読んでいると、精神科でなくとも、このような真面目で純粋な医者や看護師に出会いたいと思わせる魅力に溢れる。
しかし、彼の情熱は空転を繰り返し、己の無力さにたびたび落ち込んでしまう。
それでも自分を奮い立たせ、再び彼は次の患者と向かい合い続ける。
だが、だんだんこのトマゾの真剣さが、精神病棟の患者が持つ闇をあまりにも深く覗き込んでいる危うさとして顕になる。
読者として、理想的なトマゾ修道士と同じ視点で患者たちの心を明るく照らしているつもりが、知らぬ間に読んでいる自分自身も、この聖バシリオ精神病棟に巣食うものの深淵に手足を絡め取られていたような感覚に陥っていく。
ホラー小説でありながらも、各章の最後にミステリ的な驚きの伏線回収があったり、様々な登場人物たちの傷や意外な素顔が現れたりと、巧みな物語構成でページをめくる手を止めさせない。
聖母マリアの象徴である白百合の名を持つ「リリィ」という謎めいた少女が、さらにこの作品の厚みとして存在感を放っている。
好感を持ちながら読んでいた人物が、まったく正気を失っていたり、不真面目な態度の人物が意外な本質を見抜いていたりと、病棟の関係者が正常と異常の境を二転三転していく。
不気味さの漂う精神病棟が舞台ではあるが、物語が終わってしまうのが寂しく、まだまだこの病棟の患者と修道士たちの世界に浸っていたいと思わせる耽美なゴシックホラー小説だ。

次に読む本

『キリスト教13の不思議』著者:竹下節子

キリスト教にまつわる1から13までの数字を13の章に渡って解説していく。
比較的なじみのある話から、全く聞いたことのなかった事件まで、丁寧で理解しやすい文章で書き進められる。
決して「キリスト教は素晴らしい」という賛美が続くわけではなく、ある誰かが唱えた新しい思想が多くの人々に好意的に受け入れられたと思いきや、別の教区では異端として命まで落とし、最終的に死後に再評価された…という迷走ぶりまでしっかりと説明される。
ときどき挟まれるコラムもキリスト教から派生した芸術や文化などをリラックスした文体で紹介されていて、宗教学の初心者から上級者まで、一冊を通して堅苦しさなく楽しめる。

教養として身につけたいと思ったとしても、とてつもなく膨大で重々しく、どこからスタートすれば良いのかすら分からない『キリスト教』。
二千年という歴史の中で、数知れない賢者たちが神の存在や聖書の解釈に文字通り命を懸けて討論し、悩み抜いてきたものを一朝一夕に知識として身につけるのは不可能だろう。
『キリスト教』にまつわる「数」について学んでいく本書だが、やはり読み進めれば進めるほどに理解できることは「ああ、絶対に簡単に理解できるはずがない」ということだった。
「一神教」なのか、父と子と聖霊における「三位一体」なのかという、ある程度メジャーな解釈の問題。
他にも、かつては真理であった解釈も現代の価値観では差別的なものとなると、条件付きで禁止だったものを認めようかと舵を切ってみるが、その変化に対しカトリックでは…。プロテスタントでは…。正教会では…と、また新たな対立を生む。
本書の中にあるコラムに「PDCAサイクル」という言葉が神に対しての解説として登場する。
Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(修整)そしてまたPlan→Do……と、これを繰り返していくことで完成に近づけるサイクルを指すが、これこそが人間が二千年に渡り聖書を片手に繰り返してきたことのように思える。
こう解釈を変えたなら世界を照らす万能の神になるのでは…と計画・実行し、人々の反応を見て失望し、改善する所を考えに考え抜いた上で再び実行し、やはり待っているのは失望。
どうしても思い出してしまうのはニーチェの「人間は神のしくじりに過ぎないのか?神が人間のしくじりに過ぎないのか?」という言葉だ。
しかし、この愚かしいサイクルの根本にある、完璧なる「真」「善」「美」を求める人間たちの真剣さが時に神々しくもある。
人間は完成することのないバベルの塔を今でも造り続けているようだ。
多くの宗教家が矛盾と破綻に苦しみながらも積み重ねてきたキリスト教史の入門書として、とても楽しく重厚に学べる一冊。

おススメポイント

『ある修道士の自罪』のように、欧米を舞台とした作品を読む際にキリスト教の知識が無いと、人物たちのちょっとした言葉の言い回しの意味や、その作品がモチーフとした聖書の一場面について、ぼんやりと読み進めて流れ去ってしまう。
キリスト教人口が1%以下という日本で、なかなかその教えに精通している人も周りには数少ないだろう。
かと言って、あの分厚い聖書を読み通す意欲は湧かない。教会にまで行って勉強することにも腰が引けてしまう。
やはり、理解しやすく解説された入門書を読むのは一番の近道だろう。
『キリスト教13の不思議』はシンプルに「聖書やキリスト教にまつわる数字について」というテーマで解説されていて、現在の日本にもなじみのある数字の扱かわれ方などもあり、読み物としても敷居は高くない。
この本で気になった章や歴史的な出来事があれば、またそれをテーマとした解説書を読むことで、さらに理解を深められるだろう。
神の教えの具体性の無さに、『ある修道士の自罪』に登場するトマゾやペテロなどの修道士たちも悩みが絶えないだろうな…と感じるかもしれない。




この記事を応援する

トップページにピックアップ記事として表示します。


Stripeで決済します。カード番号を入力してください。


コメント

コメントを残す

「自動計算」へのリンク

  • 日経平均に、毎月一定金額を積立投資していたら、いくらになっているかを計算します。 毎月一定金額を積み立てていく […]
  • イデコ運用実績ブログで紹介しています。前回はiDeCo 2026年5月の運用実績 +9,604,778円です。 […]
  • 企業は、障碍者を一定の割合で雇用するように義務付けられています。2026年6月までは2.5%ですが、2026年 […]
  • 価格と内容量の変化から、値上げ率を計算します。価格を上げるのではなく、内容量を減らすことで実質的に値上げする方 […]

ホームページで興味を持ってくれた見込み客に素早くアプローチ
月70万PVウェブ制作会社の営業効率化ツール