あらすじ
2023年に詐欺罪で逮捕された渡邊真衣被告。男を騙して金を受け取り、さらにその手法をマニュアルにして販売。
「頂き女子りりちゃん」を名乗った彼女が、犯罪に至ったのはなぜなのか。
記者である著者が追いかけたノンフィクション。

渡邊真衣被告への取材を重ねるうちに、次第に彼女に夢中になっていく著者の危うさにハラハラ。
しかし、著者はそこでブレーキを踏みます。
渡邊被告だけでなく、被害者である男性や、渡邊被告に関わってきた人たちへの取材も丁寧に行い、彼女の罪とその背景に迫っていきます。
この記者ならではの冷静さと、取材相手の心情を慮る温かさのバランスが絶妙で、信頼できる書き手であると思わされました。
次に読む本
BUTTER(柚木麻子)
男たちから金を奪った末、三件の殺人容疑で逮捕された梶井真奈子。週刊誌の記者である里圭は、梶井への取材を重ねるうち、欲望に忠実な彼女の言動に振り回されるようになっていく。
実際に起きた「木嶋佳苗事件」を題材に書かれた長編小説。

梶井という一人の女性に翻弄される人たちが描かれていて、その人たちの不安定さが怖い。
「もしかして、自分も彼女に会って話していたら、被害者たちのように心酔して人生を狂わされてしまうかも」と想像してしまいます。
他人からの愛や評価ばかり気にしていては、同じ轍を踏んでしまう。
そうならないために、どうすればよいか。
自分のことを顧みるきっかけを与えてくれた小説です。
おススメポイント

『渇愛』はノンフィクション、『BUTTER』はフィクションという違いはありますが、
「男性を騙して金を奪う詐欺罪を犯した女性と、彼女を取材する記者」
という構図は同じ。
そして、加害者であるはずの女性に心酔していくところも同じ。
私は、この2冊はまるでパラレルワールドのような関係だと感じました。
『渇愛』は、記者が陶酔から目覚め、俯瞰で事件の全容を明らかにしようとした未来。
『BUTTER』は、記者が陶酔したまま、被告の指し示す道を突き進んでいった未来。
この2つの本を比べながら読むと、より人間の弱さや不安定さを自分事として捉え、自分を顧みる視点が広がります。
どちらも読みやすく、かつ、読み応えのある本なので、おすすめです!
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