あらすじ
高齢化が進む日本社会で、健康への関心が高まる中、メディアには多様な健康法が溢れています。そのため、何を信じて実践すればよいのか迷う人が多いのが現状です。本書『健康になる技術 大全』は、一般の人々がヘルスリテラシーを高め、日常生活に健康的な習慣を取り入れるための有益な視点を提供しています。
第一章では、健康法の基盤となるエビデンス(科学的根拠)について、公衆衛生の専門家である著者が解説しています。重要なのは、科学の世界におけるエビデンスには、最も信頼性の高いメタアナリシスから、専門家の個人的意見や動物実験、試験管での研究に留まるものまで、信頼性の幅があることです。特に、メディアで流布される健康情報の多くは、信頼性の低い専門家の意見が権威性のもとに扱われていることに注意が必要です。
第二章から第八章では、行動、習慣、食事、運動、睡眠、ストレス、感情といった各領域におけるエビデンスに基づき、日常生活に取り入れるべき具体的なノウハウが解説されています。これらの章は非常に有用で、実践的な内容が豊富です。
共通して重要なのは、自分の行動に影響を与える思考の癖に気づくことです。健康的な生活習慣を形成するためには、同じ時間と場所で望ましい行動を繰り返し実行することが求められます。ストレスがあると、こうした行動の目標を無視し、従来の習慣に戻りやすくなるため、意思決定に影響を与える感情の特性を意識することが重要です。また、呼吸や姿勢を整え、望ましい感情を引き出す環境を自ら作り出すことが必要です。
このように、本書は科学的根拠に基づいた健康法を実践するための具体的な手法を提供し、読者が自らの健康を管理するための力を与えてくれます。
エビデンスを明確に示さないで、断言口調で独自の健康法を主張する専門家には要注意ですね。更にエビデンスが示されていたとしても、それが信頼性のある学術誌で発表されているものなのかにまで留意することが必要ですね。各種メディアで扱われている健康情報の取り扱いで本当に多いと思ったのが、第4章「食事」で取り上げられている「エビデンスの飛躍」です。例えば牛乳を飲むとカルシウムを増やし骨粗しょう症予防につながるという説明です。牛乳は確かに骨の強度アップにつながるというエビデンスまではあるものの、骨粗しょう症リスクを説明する直接のエビデンスはないからです。こうした視点で世の中に飛び交う情報を精査し、信頼に足る情報をうまく自分の健康習慣に取り入れていくことが大事ですね。
次に読む本
「反応しない練習」草薙 龍瞬(著)
本書は、東大法学部を卒業後、30代半ばで得度出家した僧侶・草薙龍瞬氏による、ブッダの教えに基づいた人生の指南書です。私たちは日々、人間関係や過去の行動への後悔、他者からの否定的発言などに悩まされています。その原因は、心の「反応」にあります。この「反応」を引き起こす背景には、「求める心」すなわち、心のエネルギーがあり、それは生存欲、睡眠欲、食欲、性欲、怠惰欲、感楽欲、承認欲という7つの欲求に枝分かれしています。
本書では、心の状態を言葉で確認することや、身体の感覚に意識を向けること、さらに欲望や怒り、妄想といった3つの要素に分類して理解することを提案しています。これにより、悩みや苦しみを生み出す無駄な反応を解消できると説きます。悩みから抜け出せないのは、自分の心を見つめられていないからです。自分の心を理解し、無駄な判断を止め、他人の評価から自由になることで、自分の人生を信頼し、どんな悩みも乗り越えられるようになるはずだ、と本書は教えてくれます。
令和6年版厚生労働白書によると、2020年の精神疾患を有する外来患者数は約586万人に達し、年々増加しています。また、「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、仕事や職業生活に関する強い不安や悩み、ストレスを感じる労働者の割合は、2022年で82.2%、2023年で82.7%と、依然として高い水準にあります。これらの数字からも、現代社会で生きることに悩む人が増えていることがわかります。
本書で述べられている「人生=(正しい努力)-(五つの妨げ)」という考え方は、ありのままの自分を理解し、生きる苦しみを軽減するための大きなヒントになると感じました。五つの妨げとは、①快楽に流される心、②怒り、③やる気の出ない心、④そわそわと落ち着かない心、⑤疑いです。悩みが生じたとき、自分の心を見つめ、「また妨げが襲ってきた」と理解し、過剰に反応しないことが重要です。刹那的な快楽に逃げるのではなく、「今ここ」にある感覚を意識し、人生の目標に向けた作業に集中すること。そして、その過程を楽しみながら、自分をうまく手懐けていくことが、本書の教えの核心ではないでしょうか。
おススメポイント
「健康になる技術 大全」が科学のエビデンスに基づくメンタル面含む健康的な生活習慣を形成するためのノウハウと根拠を体系的にまとめた書籍だとすると、「反応しない練習」は仏教に基づくメンタル面から人生を生きやすくするための具体的方法を解説した書籍です。由来は違えど、自分の行動とその奥に存在する心を見つめ理解することが重要であると説いている点は同じです。両書を組み合わせることで、身体と心の両面から総合的な健康管理が可能になります。選定理由は、現代社会におけるストレス過多の環境で、心身の健康を効率的に整えるための実践的な知識を得られる点にあります。特に、仕事や家庭で忙しい人々にとって、具体的な行動指針を示すこれらの本は、生活の質を向上させる大きな助けとなるでしょう。
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