あらすじ
両親の事故死により、18年間義母に育てられたと思っていた”つむぎ”は、義母の入院した病院で自身が義母の実の子供だと知る。何故義母だと偽ったのか。不妊治療、胚培養、人口移植などリアルな現実が語られる中で少しずつ明らかになっていく。
最初、つむぎの義母に対する態度に嫌悪感を抱くも、それはつむぎの成長を描く為の現役医師である著者の演出だ。そしてラストに向けて医師によって描き出される、不妊治療現場の現実は、リアリティがあり
身に迫るものがあった。
(ここからネタバレあり)
義母だと思っていた女性とつむぎの本当の関係は親子よりも深く、これから明るい未来に向けて踏み出そうとする2人にホロリときた。
作中義母は
「誰かの為を思って行動するのが、こんなにも楽しいことだと、私は知らなかった。」
と語るが
苦しい過去をもつ義母が
暗闇の中に刺す一筋の光であるつむぎの為に、自らの殻を破りつむぎと生活を始めた頃に語った言葉だ。
人が生きる理由は結局のところ、この言葉に落ち着く気がした。
自然妊娠で生まれた子と、胚培養で生まれた子に違いなどないと思うが、実際に胚培養で生まれた子は複雑な感情を抱えるようだ。
不妊治療を経て生まれた子供は、本書の中でも語られている通り、「望まれて生まれた子」なのに。。。
次に読む本
夏物語(川上未映子)
以前川上さんによって書かれた「乳と卵」の続編のような形で綴られ、二つの物語が一冊の本となっており、
一章では、姉の巻子とその娘の話。
二章では、妹の夏子が、夫も恋人もおらず、異性にも関心がないが、血縁者を持つことに憧れを抱いていく話
大阪で幼少期を過ごした夏目夏子は、暴力的な父に耐えかねた母と共に夜逃げした経験を持つ。
その母も、大好きだった祖母も癌で早々に亡くし、今身内は姉の巻子とその娘の緑子だけ。
昔から本が好きだった夏子は東京に移住し、作家として細々と生きていたが、相手もいない、またその行為に対しても絶対的嫌悪感を抱いていながら、自分の子供に会いたいと考えるようになる。
(ここからネタバレあり)
アラフォーの夏子が抱える寂しさと孤独感。
そして夏子は自然に精子提供バンクに辿り着く。世間には様々な考え方があり、夏子も自身の経験を何度も思い返しながら、慎重に自身の考えを吟味していく。
繊細な心理描写には、今まで私自身が感じていながら、言葉にする事が出来なかった感情が幾つもあり、文字にされた情景を何度も読み返してしまった。
読了感は良かったが、考えさせられることの多い作品だった。
おススメポイント
2冊ともテーマは出自に関わる重いものだ。しかし物語の背景は全く異なっており、知識を深めつつ、物語を楽しむことができ、読了感もいい。
特に女性にお勧めしたい2冊だ。
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