あらすじ
2020年滋賀県大津市にあるデパート西武大津店が閉店することになった。
中学2年生の成瀬あかりは夏休みを利用して、西武大津店で撮影される生中継に閉店まで毎日映ることを宣言する。
成瀬の幼馴染である島崎みゆきや周囲の人々も巻き込んでいき……。
まっすぐな成瀬は大人の階段を登りつつ、精一杯様々なことに挑戦していく。
この物語は、「本屋大賞」2024年の大賞を受賞した作品です。
西武大津店の閉店をきっかけとして始まる人間模様が描かれており、主人公の成瀬と彼女の幼馴染である島崎を中心に物語が展開していきます。
短編6話構成の青春小説です。
学生時代にとりとめもないことに挑戦した日々を思い出しました。
泡のように消えていった日々でしたが、過ぎ去った後に振り返ると「なんでもない毎日」が宝物だったと懐かしくなります。
本作も劇的な出来事が起こるわけではなく、コロナ禍でマスク生活を送っていた頃の日常を描きだしていきます。
自粛生活から解放されつつある社会の中で、「なんでもない日常」を送るキャラクターたちは等身大の私たちに寄り添う作品でした。
学生時代のどうにもならない苦々しさを抱えた気持ちを思い出し、周囲からの評価を気にせずに我が道を進む成瀬に憧れを抱きました。
成瀬のキャラクター設定にはややライトノベルのような軽さがあります。
若い世代の方にも読みやすい作品ではないでしょうか。
滋賀県の地元ネタが多く登場します。
私は滋賀県を訪れたことがないので、初めて知った情報が多くありました。
特に興味を持ったのは琵琶湖とその周辺の観光スポットです。
本作で登場したミシガンクルーズはいつか乗ってみたいです。
続編も発売され、成瀬とその友人たちの成長した姿が見られることが楽しみです。
次に読む本
『チョコレートがなぜ一粒1000円で売れるのか』林總
先代の社長(父)亡き後、婿養子の夫・美園雅也は会社の経営方針を変えてしまった。
会社の未来を案じた美園沙友里は兄である南浩介をアメリカから呼びよせる。
アメリカの有名ビジネススクールで上位の成績優秀者に送られる「ベイカー・スカラー」を受賞した経験を浩介は持っている。
しかし社長の雅也らの陰謀にハマり、浩介と沙友里は赤字経営の子会社を譲渡されてしまった。
2人は仲間の力を借りながら、会社の再建を目指していく。
会計の分野のビジネス本を今回初めて手に取りました。
本書はストーリー形式で書かれているため、初心者でも理解しやすくなっています。
会計の視点をテーマに置いた企業のあり方や個人の働き方などがわかりやすく解説された本です。
本作で、主人公らが押し付けられた子会社はチョコレートの生産・販売事業と喫茶店事業です。
近年女性を中心として、高級チョコレートは大変需要があり、お菓子業界の中でもマーケティングに成功した部類ではないでしょうか。
浩介を中心として、会社のために全てを賭けた沙友里の元にプロジェクトメンバーが次第に集まっていきます。
仲間たちと共に2人は会社の業績を回復できるのか、必見です。
主人公・浩介のの大学時代の恩師である多胡先生や、小料理屋「みゆう」を営むみゆきさんなど魅力的なキャラクターも登場します。
会計の知識が得られるだけではなく、小説としても楽しめる一冊です。
おススメポイント
『成瀬は天下を取りにいく』では地元民に愛された西武大津店の閉店を機に物語が始まります。
このデパートは滋賀県に実在したデパートをモデルにしており、コロナ禍の中で惜しまれつつも閉店を余儀なくされました。
『チョコレートがなぜ一粒1000円で売れるのか』では赤字の子会社を押し付けられた兄妹が経営を立て直していく過程が描かれています。
企業がなくなることは、働く側だけでなく消費者側にとってもネガティブな影響があるものです。
西武大津店の閉店を惜しんだ地元民の思い出と寂しさの様子が作中で語られています。
滋賀県に馴染みのない私は『成瀬は天下を取りにいく』を読んで、西武大津店のことを知りました。
大企業のデパートと中小企業ではビジネスの規模が異なるとは思いますが、有能なコンサルタントが経営回復をした未来もあったのかと仮想してしまいました。
西武大津店は残念ながら閉店してしまいましたが、『チョコレートがなぜ一粒1000円で売れるのか』の日本製菓がどのように経営を立て直していくかが物語の鍵になっています。
ぜひ2冊合わせてチェックしてみてください。
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