あらすじ
小説家であるマッツ夢井は、ある日「文化文芸倫理向上委員会」から召喚状を受け取る。その内容は、彼女の小説に対する読者からの提訴に関する審議会に出席しなかったため、出頭を要請するものだった。
出頭先に向かうと、彼女はそのまま“療養所”と呼ばれる施設に収容されてしまう。そこで「社会に適応した小説」を書いて欲しいと言われるのだ。
マッツ夢井は、「更生と矯正」のため、監視されながら終わりの見えない収容生活を送ることになる。
実在しない組織に加え、あり得ないような設定なのに、登場人物の描写の細かさやセリフのリアルさから、まるで本当に起こっていることのような怖さを感じた。
とくに療養所での食事の描写が多いのだが、どんな状況でも生きるために食は欠かせず、食事にありつくために人は従順になる。食の統制がいかに恐ろしいか実感した。
「言論の自由」とは言いつつも、まるで言葉狩りのように他者の発言に批判が殺到してしまう昨今。少し先の未来が、このような結末にならないように祈る。
次に読む本
『侍女の物語』 マーガレット・アトウッド
ギレアデ共和国は、出生率の著しい低下に危機感を抱いていた。女性達は仕事と財産を全て奪われ、妊娠可能な女性は「侍女」とされた。彼女達の役目は、エリート層である司令官の子を産むことだった。
侍女であるオブフレッドは、自由を奪われ、常に監視される生活を送りながらも、昔の生活を忘れられない。オブフレッドの目を通して描かれた近未来の社会の物語。
淡々とした語り口ながら、内容は恐ろしい。侍女オブフレッドは、オーウェルの『1984年』を思わせるような監視社会を生きている。
周りにいる人は誰一人信用することができず、いつ逮捕され処刑されるか分からない。
財産も全て奪われ、化粧品を使うことも許されない中、オブフレッドが肌の潤いを保つためにバターを顔に塗る場面は何ともリアリティがあってぞっとした。
誰もが子を産むことに囚われすぎて、大事なことを忘れている中、オブフレッドは愛を求めている。女性の人権や子供を産むということについて改めて考えさせられる小説だった。
おススメポイント
どちらもいわゆるディストピア小説で、主人公は女性である。
恐ろしいのは、あり得ない話だとは言い切れないことだ。そしてどんなに理不尽な状況にあっても、人間はそれに慣れてしまうものなのだということも恐ろしく感じた。
人権や自由ということについて考えさせられる内容で、じわじわと恐怖を感じながらも読み進めてしまう2冊である。
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