あらすじ
5年前にデンマークで起こった法務大臣メルゴー殺人事件で、犯人はイラク系移民のユセフ・アフメドとされていた。
私立探偵のゲーブリエル・プレストは、弁護士である元恋人のレイラからアフメドの冤罪疑惑の調査を依頼される。
調査を進めるうちに、メルゴーが本を執筆中で、その内容が第二次世界大戦中ナチス占領下のデンマークに関するものだったことが分かる。
果たしてアフメドは冤罪だったのか?法務大臣が殺された背景にはナチスに関する本が関係しているのか__?
北欧ミステリーというと、いかにも「北欧ノワール」といった凍てつく寒さの描写があったり、凄惨な事件を扱った暗く重苦しい雰囲気のものが多い。
しかし本書の主人公はファッションと食を愛し、家の改修が趣味のギタリストで、訳者後書きに「コージー感」という言葉が出てきたが、登場人物たちの会話の中にもまさに寛いだような雰囲気がある。
しかし事件の内容はデンマークが抱える社会問題に切り込んでいくもので、移民差別の問題や、ナチス占領下における闇の歴史に焦点を当てており、興味深い。
また、本書では様々な人種が登場するが、著者はインドで生まれ育ち、デンマーク男性と結婚してデンマーク国籍を持ち、現在はアメリカ在住だという。そのためデンマークの社会問題を多方面から描いており、デンマークの歴史を知るだけでなく、現状行われている移民差別に関しても考えさせられた。
次に読む本
『最後の巡礼者(上・下)』 ガード・スヴェン
2003年、ノルウェーにて第二次世界大戦の英雄カール・オスカー・クローグの死体が発見された。彼は自宅で惨殺されており、ナチスの鉤十字が刻まれたナイフが凶器として残されていた。
その2週間前、オスロ北に位置する森で戦時中に殺された3人の白骨死体が発見された。トミー・バーグマン刑事は、クローグの殺人との関連性を見出す。
物語は現代と戦時下のノルウェーと、交互に展開していく。
戦時中に殺された白骨死体のうちの1人は、アグネス・ガーナーとされた。彼女は親ナチ派のノルウェー人実業家グスタフ・ランデの婚約者で、ファシズム政党の国民連合の党員であったことが分かる。しかし実は彼女はイギリスで訓練を受けたスパイであった。
物語はアグネスを中心とした戦時下のノルウェーと、バーグマンが犯人を追う現代と交互に描かれていくのだが、特にアグネスがスパイとして活動していく様はスリル満点である。それに加え恋愛要素もあり、読み応え充分なのだが、本書が著者のデビュー作だというので驚いた。
プライベートに問題を抱えるバーグマン刑事の今後も気になるところで、次回作も楽しみである。
おススメポイント
この2冊はデンマークとノルウェーと国は違うが、どちらも北欧諸国が抱える戦時中の闇を描いている。社会福祉国家のイメージが強く、戦時中は中立の立場であった北欧諸国だが、どちらの作品もナチス占領下における闇の歴史を抉り出している。
北欧ミステリーの作品は、事件そのものだけでなく、国が抱える社会問題や、登場人物自身が抱える問題を深く掘り下げたものが多い。
犯人や動機を暴くだけでなく、様々な人間らしさに触れたり歴史を知ることもでき、読後の満足感が高いため、ぜひお勧めしたい。
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