あらすじ
中学二年生の佐久間優斗は、担任の先生に将来のことを聞かれても「年収の高い仕事がいいです」と答えるような、どこか拗ねた少年。そんな彼は街で出会った、久能七海という女性と一緒に、謎めいた洋館に住む初老の男、『ボス』のところへ、お金の勉強をするために通うことになる。目の前にドンと札束を積んで話を始めるような、あやしげな『ボス』。だが、彼が教えてくれたのは、お金の儲け方でもなければ、お金の悩みを解決するような話でもない。ボスがまず教えてくれた、「お金に関する三つの大事なこと」とは、
1.お金自体には価値がない
2.お金で解決できる問題はない
3.みんなでお金を貯めても意味がない
というもの。一見、お金に関する常識に逆らうような教えに、佐久間優斗は最初は反抗心すら抱くものの、どこかで、七海と一緒にボスの家に通いお金の話の続きを教えてもらう日々が楽しくなってきた。
ボスの教えはしだいに具体的なものになり、お金の正体は、実は「みんながお互いのために働く社会」を作るためのものなのだ、という話となる。ところが、実は、ボスが七海と優斗にこのような話をすることには、秘密があった。優斗は、いつまでも、ボスの家へ好きな時にいけば、いつまでも、楽しい話が聞けるものと思っていたが、実はボスには、もう残り時間がなかったのだ。
お金と社会の話を、少年向けのファンタジー小説の体裁で読みやすく書いてくれた、なんとも心優しくなる不思議な雰囲気の本でした。あらすじに書いたとおり、実は一種のミステリー仕立てにもなっていて、後半の20%くらいはドンデン返しと、これまでの伏線が続々と回収されていく「解決編」になっています。そのオチが、ちゃんと、『ボス』の教えである「未来のための贈与」というテーマにつながる結末になっている点は感動的でした。
私自身も父親ですが、子供にぜひ読ませたい本!!いや、その前に、父親たる私自身がまずこの本をしっかり理解し、子供から「お金のこと」「社会のこと」を聞かれた時には、この本に書いてあるような考え方を答えてあげたいと思います。
特に私が、「子供に質問されたら、こう答えたい!」と思った、本書のポイントを二つ、あげておきましょう。
ひとつめ、「お父さん、お金持ちというのは悪い人たちなの?」
ともし聞かれたら、
本書の「退治する悪党は存在しない」の章の内容をぜひ教えてあげたい。世界には、問題と、それを解決しようとがんばっているたくさんの人々がいるだけで、誰かが陰謀をもってみんなからお金を吸い上げていることなどはない。そして昔に比べて、社会の問題は、たしかに、ひとつひとつ、解決されているし、それを止めるわけにはいかない。
ふたつめ、「GDPというのは、上げなくちゃいけないの?」ともし子供に聞かれたら?
これも、本書の中での「GDPは、ネットの世界でいう『いいね数』と同じ」という比喩が卓越で、私も子供にはこれで説明したいです。答えとしては、まず、GDPは「上げるべきだが、それ自体が目的になるとおかしなことが起こる」というもの。ネットのいいね数と同じく、「がんばって良い発信をしていると、自然に、いいね数が増えてくる」という意味で、上げるべきものではあるのだけど、「いいね数を増やしたいがために、いろいろ無理な配信をしよう、炎上商法にも手を出そう」とやると、たちまち、狂った施策ばかりを打ってしまう。何かをやったことへの評価としてその数値を分析するのは良いが、その数値自体を上げることを目的に行動してはいけない数値、という点で、「いいね数」にたとえたのは見事と思った。
こういう、子供と経済や社会の話をするときに是非使いたいような知見がどんどん出てくる本。ぜひ一読をオススメしたい
次に読む本
現代経済学の直観的方法(長沼伸一郎)
本書は、著者自身が、「経済学の予備知識がゼロの読者が、通勤電車の中で手軽に読めて、かつ、これ一冊で、経済学の基本的な部分については一通り理解できる」コストパフォーマンスの良さを目標に書いたと言っている通り、とても読みやすく、わかりやすく、それでいて経済学の要点は全部入っている本。
たとえば、どうして資本主義が誕生し、成長してきたかを、「すべての人が昼間に生産業にたずさわり、金貨一枚を手に入れて、それをその日のうちの生活費にきれいに使ってしまい、また翌日に金貨一枚分の仕事をする・・・これが繰り返されている町」を比喩に説明していきます。どうして、一見すると、永久機関のように回り続けそうなこの町には、限界があるのか?そしてその限界を乗り越えるために、「銀行」というものが誕生すると、今度はどのような問題が起きてくるのか。
同じように、インフレとデフレ、国際基軸通貨、貿易などの話を、「実際の世界を単純なモデルに変えた、たとえ話としての、小さな町(小さな国)」を登場させ、わかりやすく説明していく。
最後には現代経済を見る上でホットなトピックである、仮想通貨やブロックチェーンについての章が設けられている。
ビジネスマン向けの経済学の入門書として、これ以上ないくらいに、わかりやすくて、しかも網羅的で、かつ面白い本。「経済学の予備知識がない人向け」と書かれているのですが、「経済学?なんとなく知ってるよ」と言う方もぜひ一度、本書を通して読んでほしいと思いました。というのも、この本に書いてある知識の一通りが頭に入っているだけで、ニュースがわかるようになるだけでなく、「インフレが起きている?ははあ、ということは、原因として〇〇が起きているのだな」と、経済ニュースの背後のストーリーまで見えてくるようになります、本当です。一冊でこれだけ網羅的に知識がアップデートできる本として、なるほど、「経済の勉強」に関するコストパフォーマンスとしては圧倒的な効率を誇る本ではないでしょうか!
おススメポイント
田内学の「きみのお金は誰のため」を、家の中で「子供に経済のことを教える時にぜひ参考にしたい本」とするならば、長沼伸一郎の「経済学の直観的方法」は、「会社で同僚や上司と経済に関する雑談をする時にぜひ参考にしたい本」と言うところでしょうか。つまり、両方を読んだ二刀流の方は、お父さんとしてもビジネスパーソンとしても無双です!もちろん、金融の仕事に就く等のプロの世界に進むならこの二冊では足りませんが、少し偉そうなことを言えば、「社会人たるもの、この二冊に書いてある知識は最低限、知っている方がぜったい良い!」と思う。もちろん私も、そう思っている以上は、この2冊をますますきちんと再読を繰り返して理解したいと思います。そして、この二冊に共通する、とても良い点は、「正しい知識を身につけることで、社会生活における正しい判断ができるようになる」ことを目標にしている点。もちろん、ここでいう「正しい判断」とは、目先のお金を儲ける判断とかではなく、むしろその逆。政治や社会問題についての、市民としての判断の場で、正しい判断をするための、力のことなのです。
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