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ジョブ型雇用社会とは何か――正社員体制の矛盾と転機(濱口桂一郎)

あらすじ

近年、テレワークの普及や働き方の見直しが進むなか、「ジョブ型雇用」という言葉を耳にすることも多くなりました。

本書はこの用語の発案者である濱口桂一郎さんによる「ジョブ型雇用」、およびそれと対になる「メンバーシップ型雇用」についての解説書です。

「ジョブ型雇用」とは簡単にいえば「職務(ジョブ)に人をあてはめる」もの。対して「メンバーシップ型雇用」は「まず人を雇って職務を割り当てる」ものです。

本書では「ジョブ型雇用」と「メンバーシップ型雇用」という雇用システムの違いが、採用と就職、退職、賃金制度、人事考課などさまざまな場面で根本的な違いをもたらすことが詳細に解説されます。

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「ジョブ型雇用」と「メンバーシップ型雇用」という理論モデルは日本社会における働き方を考えるうえで非常に便利なものです。

実際、本書を読むと、新卒一括採用と「内定」、OJT、定期人事異動、(しばしば断れない)転勤辞令、定年退職など、私たちがあたりまえのように思っている働き方の多くが、メンバーシップ型雇用であるがゆえに発生するもの(それゆえ日本特有のもの)だと気づかされます。

また、本書で指摘されるように、正社員と非正規労働者の処遇の違い、長時間労働やパワハラ、それに伴うメンタルダウンや過労死、女性のキャリア、障がい者や外国人の雇用など、現在の日本社会が直面するさまざまな労働問題も、日本におけるメンバーシップ型雇用の行き詰まりと深く関連しています。

法令などの建前は「ジョブ型」モデルで設計されていながら実際の運用上は「メンバーシップ型」に則っている、といった事例も多いようで、こうしたいびつな構造が問題の解決を困難にしている印象も受けました。

次に読む本

会社のなかの「仕事」 社会のなかの「仕事」 資本主義経済下の職業の考え方(阿部真大)

「仕事」とはなんでしょうか? 「仕事」が組織(会社)のなかでの役割だけでなく、社会のなかでの役割=職業という側面をもつことを論じるのが本書のテーマです。

働く人は、組織(会社)のために業務をこなす「組織人」であると同時に、社会のなかでの役割を果たす「職業人」でもあります。

たとえばフライトアテンダントは「組織人」として客に快適なサービスを提供する一方、ひとたび安全確保を優先しなければならない場面になれば、「職業人」として乗客に厳しく注意する必要にも迫られるでしょう。

本書は「仕事」を組織内の業務としてだけでなく、社会における役割=「職業」ととらえる重要性について、近年の労働をめぐる話題や『半沢直樹』などのフィクション作品、また著者の大学教員としての経験や「パートタイム田舎就労」(ふるさと兼業)などの新たな取り組みなどを題材にして論じていきます。

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本書の第6章で、コロナ禍におけるテレワークの実態が分析されています。

テレワークは当初、柔軟な働き方を普及させることで、従来の「メンバーシップ型」の組織文化から「ジョブ型」の組織文化への変化をうながし、特に女性が働きやすい環境を整えるものと期待されました。

しかし蓋を開けてみれば、テレワークによって従来の働き方が変化するのではなく、従来の働き方のほうにテレワークを合わせていくような現象が多く見られたといいます。オフィスの机の並び(島)を模したリモート「監視ツール」や、「オンライン朝礼(夕礼)」なる風習がその例です。

結果、テレワークで働く女性は、これまでと同じように組織内の仕事をこなしつつ、家庭内のケア労働をも求められるという二重の負担に苦しめられることになりました。

ここにもまた、「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」のいびつな結合を見た気がしました。

おススメポイント

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今回はこれからの時代の「働き方」について考えるうえで役立ちそうな二冊を取り上げました。

いま新しい働き方として「ジョブ型雇用」が注目されていますが、制度が変わっても全然「働き方改革」にならない……という残念な結果は避けたいものです。

そのためにもまずは「ジョブ型雇用」について正しく理解しておく必要があるでしょう。

『ジョブ型雇用社会とは何か』はそのタイトルどおり「ジョブ型雇用」を知るうえでうってつけの一冊です。

いっぽうで制度が変わっても働く人の意識が変わらなければせっかくの改革も砂上の楼閣のごときものとなることは、『会社のなかの「仕事」 社会のなかの「仕事」』でも示されたとおりです。本書で論じられる「職業」という考え方は、ジョブ型雇用の前提となるものといえるでしょう。

今回取り上げた二冊を合わせて読むことで、「ジョブ型雇用」によって働き方がどう変わるのか、また働き方をどう変えなければ「ジョブ型雇用」にならないのかをじっくりと考えることができるのでないでしょうか。

この記事を書いた人

電柱保管

電柱保管

大学・大学院時代に取った杵柄で社会科学・人文思想などの本をよく読みます。小説はミステリー系を中心に、おもしろければなんでも。

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