あらすじ
読書好きもそうでない人も、誰しも一度は訪れた経験があるであろう新古書店チェーン「ブックオフ」。一方で「古本業界の革命児」と称賛され、他方で「出版文化の破壊者」と非難されてきたブックオフは、私たち消費者にとってどんな意味を持つ場所なのか。本書はいまや多くの人にとってなじみ深い存在となっているブックオフが、現代の日本社会において重要な「文化のインフラ」としての役割を果たしているのではないかと論じた一冊です。
ブックオフでは「見た目のきれいさ」と「刊行の新しさ」だけを基準に古書を買い取るため、店内には多種多様な本が特になんの意図も目的もなく、「なんとなく」集められ並べられています。著者の谷頭和希さんはこの「なんとなく性」こそブックオフの魅力の源泉だとし、そこからさまざまな「文化」が生み出されているといいます。
ブックオフをはじめとするチェーンストアといえば、「街の風景を均質化するもの」と否定的にとらえられることが多かったと思います。それだけに、居抜き物件店舗の外観の細かな違いや雑多に集まってくる商品のラインナップそのものが周辺の都市の姿やその文化を浮かび上がらせるという視点にはハッとさせられました。
また「三千円ブックオフ」のような「あそび」のカルチャーが広がっているという指摘は興味深かったです。ブックオフは「なるだけ安く本を買いたい」という切実な節約の場所、あるいはサブカルチャーに対する行き場のない憧れを持てあます少年少女たちにとっての「居場所」というだけでなく、消費それじたいを積極的に楽しむ場となっているわけですね。
次に読む本
消費社会を問いなおす(貞包英之)
モノやサービスの大量生産・大量消費で特徴づけられる「消費社会」が、人間の自由や多様性を実現するうえで重要な基盤となっていると論じた本です。
考えてみれば、好きな本を読み、好きなものを食べ、好きな服を着て快適に過ごすことができる私たちの自由な生活は、お金さえ払えばモノやサービスを好きに買える消費社会だからこそ実現できているものです。そして、こうした多様かつ安価な商品を消費し、多様な欲望を生きることが許される社会は、たとえば江戸時代に庶民のあいだで広がった園芸ブームのような、無数の人々による無数の消費の実践が積み重ねられてきた歴史の上に成り立つものでもあります。
だからこそ私たちは、消費社会を悪しきもの、あるいは「終わったもの」として単純に否定するわけにはいきません。著者の貞包英之さんは、私的な選択の自由が保障される消費社会の「権利」を擁護しつつ、経済格差の広がりや環境問題の深刻化といった難問についての解決策も同時に探っていかなければならない、と主張します。
社会学の専門書と言える内容ですが、実例も多く極端に難解ではありません。100円ショップやサブスク、「片づけの魔法」、超高層マンションでの生活、「裏切らない」筋トレブームなど、身近な消費現象についての分析が豊富で、「そんな見方もあるのか!」と知的興奮をかきたてられること請け合いです。
おススメポイント
今回紹介した二冊はどちらも、私たちが普段あたりまえのようにおこなっている「消費」から社会を考えようとする本です。また、軽薄で悪しきものと否定的にみなされがちな「消費」や「消費社会」を積極的に肯定するスタンスをとり、その豊かさや文化的な意義を見いだそうとしている点でも共通しています。
丁寧な取材と考察にもとづいた『ブックオフから考える』を読んで、ブックオフもまた、『消費社会を問いなおす』の言う固有の論理を持つ消費の場のひとつであると思いました。もちろん『ブックオフから考える』で説かれるブックオフの意義には『消費社会を問いなおす』の分析に収まりきらない部分もあり(公共性との関わりなど)、二冊を合わせて読むことで、「消費」という身近な現象を通して社会を見るおもしろさをより深く理解できるのではないでしょうか。
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