あらすじ
最近の組織論でたびたび登場する心理的安全性の高い組織とはどのような組織なのか、もともと語源の定義(「チームの中で対人関係におけるリスクをとっても大丈夫だ、というチームメンバーに共有される信念のこと」)、誤解されがちなヌルい組織などとの違い、4つの因子などから詳しく解説されている。
4つの因子とは①話しやすさ、②助け合い、③挑戦、④新奇歓迎という内容で、サーベイに基づく科学的手法で導かれた結果だ
このようなチームを作っていくために、リーダーは意見の相違から生まれるネガティブな感情に悩むのでなく、誰にでもあるノーマルなことだと受け入れつつ、顧客の課題といったビジネスで大切なことを明確化し、具体的に行動に落とし込んでいくことが大切なのだ。
そして、行動を変えるにはきっかけとその後のみかえり(行動の結果もたらされること)への働きかけが重要であると述べられている。リーダーはメンバーが確かにそうだなと思える行動をとれるよう、きっかけとみかえりを的確な言葉で伝え続けることが必要なのだ。
今の時代、心理的安全性そのものや、その4つの因子について異論を唱える人はあまりいないのではと。
問題はマネジメントがどうやってそれを実現していけばいいのかちゃんと考えていないこと、具体的行動に結びついていないこと、その結果として組織の心理的安全性が低くなっていることにあるように思います。
人はどうしても自分の感情から自然に生まれる言葉をそのまま相手にぶつけてしまいがちです。ネガティブな感情の場合、相手を否定する言葉となります。相手は短期的には行動を改めるかもしれませんが、定着しないことがほとんどです。
本書で述べられている処方箋は、変えて欲しい行動のきっかけと行動の結果としてみかえりにフォーカスするというものです。マネジメントとしてはメンバーの変えて欲しい行動のきっかけを1on1などの対話から解きほぐし、行動を変えることで本人や組織にとってどんなメリットにつながるのかを根気よく伝えていくことが求められるのでしょう。
次に読む本
「多様性の科学」(マシュー・サイド 著)
組織の多様性がなぜ大事なのかを、実例や科学的な研究成果をもとに考察しているのが本書だ。
例えば、深い分析をするために集めた最高の人材を誇っていたはずの米国CIAが、あの痛ましいアルカイダによる9.11テロを事前に見抜けなかったのは、人材の同質性からのブラックホールのような盲点が原因だったと。
また、エヴェレスト登頂時の急激な気候変動に直面した登山チームや、機体に何らかの異常をきたして正常な着陸が困難になったコックピット内の機長とクルーなど、問題が複雑になるとチームの順位制が悪影響を及ぼすことが紹介されている。危機に対する自発的・多面的な意見をヒエラルキーが阻む構造になるからだ。これはヒエラルキーの中で生きることをプログラミングされた人間が陥るパラドックスといえる。
人材の多様性はこうした危機管理だけでなくイノベーションを生み出す上でもポジティブな効果をもたらすことが知られている。実際イーロン・マスク、ピーター・ディールなどの多大な業績を上げた起業家の多くは移民もしくは移民の子孫なのだ。
本書は、わたしたちが日常に多様性を取り組むために、以下の3つの提案で締めくくられている。
1)無意識のバイアスを取り除くこと
2)若い社員が上層部に意見を言える場を設けること
3)自分の考えを相手を共有しようというGiverとして心構えをもつこと
島国という環境下で人種的に同質性が極めて高い日本では、少子高齢化が進み移民受け入れも進まず、まわりの空気を読んで同じようにふるまわないと精神的なリンチを受けやすい環境下にあります。ビジネス面でも既得権益がはびこりイノベーションが生まれにくくなっています。
だからといって日本に魅力や未来への発展可能性がなくなったわけではなく、温暖な気候と四季の移り変わりの美しさ、繊細な和食文化、治安の良さ、漫画・アニメ・ゲームなどの豊かなコンテンツなど海外にはない独自の魅力は沢山見出すことができると思います。
同質性に基づく近視眼的な心地よさに甘んじることなく、性別・年齢・国籍などの人口統計学的多様性に加えて価値観・考え方・パーソナリティといった認知的多様性を取り入れていくことが極めて重要と言えますね。
心理的安全性と多様性。この2つこそ、今の日本の組織に必要なことではないでしょうか。実際、オランダのHuman Insight社によるQIインデックスという研究によって、この2つが揃う組織のパフォーマンスが高いことが検証されています。問題は、概念は知っていても行動に結びつけられていない個人や組織が多いことにあるように思います。組織のリーダーの深い理解と明日からの行動に、日本の未来が掛かっているのです。私も日々実践しています。
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