西の魔女が死んだ

西の魔女が死んだ(梨木香歩)の次に読む本

あらすじ

中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まい。「西の魔女」と呼ばれるまいの母方の祖母の家で「魔女修行」を行いながら過ごすことに。春から初夏へと移り変る季節の中で、生命力のあふれる自然を感じながら過ごす「当たり前」の美しい日常が、まいの心をほどき、成長させていきます。

しかし、ある小さな事件をきっかけにすれ違った二人は、気まずいまま別れ、やがておばあちゃんは還らぬ人に…。

ネリ

映画化もされた梨木香歩さんのデビュー作「西の魔女が死んだ」。タイトルのインパクトと、優しいイラストに惹かれ、軽い気持ちで踏み入れたこの世界は、まさしく魔法に溢れた「マイ・サンクチュアリ」でした。

まず凄いな…と思ったのは、思春期特有の女の子の心理描写。自分自身も経験したあの頃の「モヤモヤした何か」が、美しい筆致で細やかに辿られてることに驚きました。心の揺れや振れ幅も丁寧に言語化されていて、「そうそう、それなのよ!」と頷くことばかり。あの頃にこの本に出会っていれば、どれだけ心強かったでしょう。。

「シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって、だれがシロクマを責めますか」。そんな優しいおばあちゃんの言葉は、大人になった今の自分の心も慰めてくれます。

魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということ。喜びも希望も、幸せも…。

そんな当たり前だけど、学校ではなかなか教えてもらえない「生きる智恵」…良いことも悪いことも自分で選択し、自分で責任を負う。だからこそ、人生は楽しく、生きる価値がある。どこか受け身になりがちな今の子どもたちにこそ読んでもらいたい、オススメの一冊です。

次に読む本

葬送のフリーレン(山田鐘人・アベツカサ)

マンガ大賞2021を受賞した話題作「葬送のフリーレン」。

エルフのフリーレンは、勇者ヒンメル、僧侶ハイター、戦士アイゼンと共に魔王を倒す。その50年後、解散前に約束した「半世紀流星」を皆で観賞した後、勇者ヒンメルはその生涯を終える。その葬儀の席で、自分はヒンメルのことを何一つ知らなかったことに気付き、悔恨の涙を流すフリーレン。

そして、フリーレンの「人間を知る旅」が始まった。

ネリ

RPGゲーム好きにはたまらない設定と、美しすぎる情景、そして魅力的なキャラクター!どこを取っても「好き」としか言えないのに、人と人(あ、エルフか…)が紡ぐ関係性を細やかに描いたストーリーがまた泣かせます。冒頭部分の立ち読みができる本屋さんで、滂沱の涙を流し、不審な目を向けられていたのは私ですよ…ハイ。。

長命のエルフにとって、勇者ヒンメルたちと過ごした10年は本当にあっという間の出来事。それなのに、その10年間で、ヒンメルたちが「魔王退治」の道程で行ってきた数々の「種」が、長い年月を経てフリーレンの中で芽吹いていく様子に、心の震えが止まりません。

思い出すのは、子どもの頃に飼っていた猫。15才で旅立ちました。猫と人間とはやはり生きる単位が違います。それでも「共に生きたい」と思ったあの幼い心は今も生きています。そんな「寄り添いたい」という気持ちが一番大事なのかもしれません。

そして、その15年間で、多くのことを教えてくれたんですよね。生きる時間の単位が違うからこそ、見せてくれたものもありました。それを「人間の時間軸」にまで上げたものが、「葬送のフリーレン」なのかもしれない…と強引に繋げてみたりして。。

エルフという悠久の時を生きる少女に、勇者ヒンメルや賢者ハイターが見せた生き様からは、人として多くの学びがあります。決して饒舌な言葉で語られるものではないけれど、静かに確実に「受け継がれていく」もの。

冒険譚としても面白い「葬送のフリーレン」ですが、人が人(エルフ)に遺した形のない宝物を発見していく旅として、とても魅力的なマンガ。これからの展開も楽しみです!

ネリ

子どもを持つ前と持った後では、同じものを読んでも感じ方が大きく異なります。学生時代は「まい」に感情移入し、当時に「葬送~」を読んでいたら間違いなく「フリーレン」に感情移入していたでしょう。でも、子どもを持った今は、伝えていく・遺していく…という視点で、「おばあちゃん」や「ヒンメル」「ハイター」「アイゼン」の心を慮りながら物語を辿る自分がいます。

遺されたものは生きていかなければならない。遺されたものの記憶から失われたとき、人は本当の死を迎える…とも言います。多くのものを受け取って今を生きる自分が、次の世代に大切なものを届けるにはどうすれば良いのだろう?そして、何を伝えるのが良いのだろう?

そのヒントが、この2冊にはあると思います。伝えようと思って伝わるものではない。逆に、伝える気がなくても、自然と伝わっていくものもある。こんな風に言葉だけではなく生き様で、親として多くのことを伝えていけると良いなぁ…と、しみじみと噛みしめるのです。

更にこの2冊に共通するのは、豊かな自然描写。人が生まれ消えていっても、自然は変わりなくその営みを見守り続ける。そんな自然に、人は身と心を委ね、癒されるのかもしれません。

読み終わった時にふと、自分という畑に、同じ時を過ごした人たちのたくさんの種がまかれていることに気付きます。私の中で、あなたが芽吹く。そして、私も誰かを支える種となって、その中で根をおろすことが出来たら…。

愛しい…自分も、あなたも、この世界も。この美しい世界に、縁あって出会った人々と共に生きる喜びを、私はこれらの本の中の旅を終えた後に感じるのです。


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