学力の経済学(中室牧子)の次に読む本

あらすじ

教育経済学者で慶応義塾大学総合政策学部教授の中室牧子博士が、教育や子育て・学力という、時に「神聖」とされる分野を、膨大な数のデータを元に経済学的に分析しまくる一冊。 著者自身は教育者ではなく、またお子さんもおられないことに驚いたのですが、だからこそより冷静で客観的な視点から、統計が導き出す「費用対効果が最も良い選択」が呈示されているようにも感じます。 そんな統計学データが指し示す解の例を挙げると…

・子どもはご褒美で釣っても「良い」
・ほめ育てをしては「いけない」等々

その理由ももちろん丁寧に記載。 そして、「人的資本への投資は、とにかく子どもが小さいうちに行うべき」‥ちなみに人的資本とは、人間が持つ知識や技能の総称で、人格形成や体力・健康などへの支出も含まれます。

ネリ
ネリ

薬剤師という職業柄か、個人的にはこの「健康」というワードに凄く目がいくんですよね~。 「○○ママの成功する子育て」というのも嫌いではないけれど、「自分とはちょっと違う」って思う部分が大きい。 読み物としては楽しいけれど、正直、再現性は低いと感じてしまう…。

その点、この本の中では統計データを元に、親・教育者が取るべき選択肢が提案されています。 そして、今の日本の教育現場がいかに閉鎖的で遅れているかということも…。 (ただし5年前の出版時に比べると、随分この辺りも光が当たり、進んでいるようにも思う。)

「デ―タを用いて教育を科学的に分析することが、どれほど世の中の役に立つことなのか。」 「教育にエビデンスを。」 中室牧子博士の訴えが心に迫ります。

次に読む本

世界に通用する子どもの育て方(松村亜里)

著者の松村亜里先生は、医学博士で臨床心理士、また2人のお子さんを持つお母さんでもあります。 自身の子育ての中で体験した大きな挫折‥その極限状態で学んだマーティン・セリグマン提唱のポジティブ心理学に救われ、現在はそれを広める活動をニューヨークを拠点にされています。

そんな松村亜里先生がポジティブ心理学をベースに、「幸せになるにはどうすればいいのか」を、より「子ども」に特化した形でまとめられた処女作。 この研究と今までの子育て論との違いは次の2点。

・「何をすると子どもがダメになるのか」ではなく、「どのような関わり方が子どもの幸せにつながるのか」という視点

・個人の成功体験、哲学的な思想、根拠のない道徳的な理論ではなく、科学的に検証

例えば「ご褒美」の功罪。 報酬は、簡単な課題ではパフォーマンスを高めるけれど、創造性の高いこと(ひらめき等)には効かないんだとか。 さらに、もともと持っている興味を失わせてしまうことも。

ちなみにご褒美に関しては、先の「学力の経済学」での検証もあり、報酬は「試験」などのアウトプットより「宿題」や「読書」などの具体性のあるインプット作業に対しての方が、また「お金」よりも「トロフィー」などの方が効果的ともあります。

ネリ
ネリ

この本の凄いところはエビデンスを基にした事実の羅列で終わらないところ。 至る所に著者の子どもへの…そして子どもを育てるお母さん・お父さんへの愛情が溢れているのです。

ご自身の辛かった体験や失敗・反省を踏まえ、だからこそ「育てる側が満たされている状態が大切である」とされています。 自分の中で溢れた「幸せ」が、自然と子どもに伝わっていくことを強く訴えておられます。

本書にあったハーバード大学の追跡調査で衝撃的なものがありました。 大学時代に「親に愛されている」と感じていた学生は30年後(50才頃)に25%しか病気になっていなかったのに、「愛されていない」とかんじていた人は87%が病気に…。 とりあえず、子どもが「無条件に愛されている」と感じてさえいれば、その子が元気に育つ確率が跳ね上がるって凄くないですか!?

色んな子育て情報がある中で、親は「何が子どもにとって良いことか」日々悩みますよね。 全部取り入れようとすると大変なことになるけれど、個人的に軸としているのがこの本です。

この本は数多くの実験結果や研究・統計データを使いつつ、実はめちゃくちゃシンプルな子育てを提示しています。

「親が愛情を示すこと」 「親自身が幸せであること」 そこをしっかり押さえて、後はオプションで付け加えていけば良いんだ‥と思うと、凄く気が楽になったりして。

もちろん統計データで補いきれないハプニングが起こりまくるのが現実の子育て。 思い通りにならず、足掻いたりもがいたりするみっともない自分も含め、「そのままでいいんだよ」と認められたような優しさを、この本を読み終えた後に私は感じます。

ネリ
ネリ

昔、プリンセス・メーカーというゲームにハマりましてね。 授かった娘に色んな習い事などをさせてパラメーターを上げていくアレです。 子育てをしているとよく思い出すんですが、望んだパラメーターが簡単に伸びないのがリアル子育てです。

子どもにプリンスやプリンセスになってほしいとは思わないけれど、幸せにはなってほしい。それはきっと、全ての親に共通する思いですよね。

そのために「今」できることは、なんだろう?「今」しかできないことは、なんだろう?思いどおりに伸びない子どものパラメーターに唸りながら、親たちは今日も試行錯誤を繰り返しています。

一瞬一瞬まさしく「今」に振り回されることがほとんどだけれど、長いスパンで子育てのゴールを見据えた時、「今」やっていることがどこに繋がっているか…それを見せてくれるのが個人の体験ではなくデータに裏打ちされたこの2冊。

「教育にエビデンスを」‥ 過去の膨大な子育てや教育のエビデンスから生まれた2冊の本は、子どもと向き合う勇気と覚悟をくれるでしょう。

2冊の本には共通するアイデアもたくさん。例えば「能力ではなく、努力・過程(プロセス)をほめること」。 「プロセスフォーカス」と呼ばれるこの手法を、親が子育てのスタートに近い段階で知っておくことは大きな財産ではないかと思います。 能力だけを褒められた子がどうなるのか…ということも含めて。

また「自己肯定感(自尊心)」のワナもそう。 自己肯定感が高いから学力が上がるのではなく、実際は学力が高い結果として育っていた…というカラクリ。 そのため、やみくもに「自己肯定感(自尊心)」を高めても、成功するとは限らずむしろ害になることも…。

ちなみに「世界に通用~」では、「自己肯定感」よりも大切なものとして、自分が誰かの役に立つという「自己効力感」が挙げられています。

「学力の経済学」で提示された幼少期の投資リターンが一番大きい‥という事実。 だとしたら、一番小さい子と向き合うお母さん・お父さんたちが、こういった小ネタやスキルを知っていることは、どれだけ大きな社会的価値があることでしょう。 言葉や向き合い方という、ちょっとしたこと…その「ちょっとしたこと」が、子どもの数十年後の着地点を大きく変えるかもしれません。

子育てはまさに命がけの実験で、この世界は色んな材料が揃った研究室(ラボラトリ)。 子どもが生まれると自動的に「親」になる私たちは、最初は右も左も分からず、戸惑うことばかり…。 そんな時、手探りでいくより、根拠のある手順書(プロトコル)がある方がどんなに救われることか‥。

この2冊は、迷える親や子育て・教育に関わる人間にとって、きっと頼れる羅針盤になると思います。




この記事を応援する


Stripeで決済します。カード番号を入力してください。


コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


「自動計算」へのリンク