『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。 』(バルファキス・ヤニス)の次に読む本

あらすじ

2019年に話題となった経済の本を紹介します。この本は、ギリシャの経済危機時に財務大臣を務めた著者が、娘に語り掛けるように、広い意味での「経済」がどのようなものかを説明したものです。できるだけ平坦な言葉を用いたり、有名な映画や文学作品の比喩を多く使ったりして読みやすい工夫がなされています。

この本では、まず、

なぜ世界にはこんなに「格差」があるのか?

という問いを立てます。

例えば、イギリス人はアボリジニを侵略したが、なぜその逆は起こり得なかったのか?この問いの狙いは、「経済」の起源を明らかにすることです。著者は以下のように説明します。農耕社会が始まる以前には、互いの欲しいものを物を交換するような「市場」はあったが、おカネを介した「経済」はなかった。農耕社会が始まり、「余剰」を管理する必要ができて、貸し借りした余剰の作物を記録するための「文字」が発明された。そして、その記録自体が取引され「おカネ」になった。おカネの起源は借用書みたいなものだったのだ。おカネが使えるためには、そのおカネが作物と交換できるという信用が必要だ。やがて国家ができ、おカネの信用が高まった。国家とおカネを介した「経済」は互いを強化し合い、軍隊や官僚制、宗教ができ、ヨーロッパのような国ができ、他の大陸を侵略するに至った。

すべては「余剰」から始まったのだ。

さて、ヨーロッパは、地理的な機会に恵まれ農耕に適していた。なので「余剰」ができ「経済」が発展した。一方、オーストラリアは、農耕に適しなかったので「余剰」ができず、「市場」はあったが「経済」が発展しなかった。そして軍隊をもたないアボリジニは、イギリスにあっさりと侵略された。

その他にも、この本では、金融商品などが取引される現代のより高度化した経済がどのような問題をはらむかや、おカネでは測れない価値、仮想通貨についても非常にわかりやすく説明しています。

次に読む本

『おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密』(高井浩章)

この本は、経済を専門とする新聞記者である著者が、実際に自分の娘たちに経済やおカネの仕組みを楽しく学ばせるために書いたものです。中学校を舞台にした青春小説のスタイルで、非常に読みやすく、中高生向けの経済の入門の本としてうってつけだと思います。

ストーリーとしては、中学2年生の平凡な「僕」は部活動として「そろばん勘定クラブ」に入ります。そこで、お金持ちの少女と、2メートルを超す外国人風の顧問から、おカネの仕組みを学びます。そこでまず出された宿題は、「この世には、おカネを手に入れる方法が6つある。それは何なのか?」というものです。「かせぐ・ぬすむ・もらう・かりる・ふやす」という5つのキーワードはすぐに出てきましたが、最後の一つがなかなか出てきません。ラストの6つめは何なのか?ストーリーに沿ってそれが明らかになっていくのが見どころです。

著者は、日本には、「お金は汚いモノ」「金に執着するのは卑しい」「ややこしいから遠慮したい」という偏見が根強くあるといいます。でも、お金の話は、汚くもなければ難しくもなく、大切で何より面白いということを伝えたい。そういう思いでこの本は書かれたそうです。

実際、この本は、「お金を手に入れる手段」を軸にしたストーリーを読み進めるうちに、お金とは何か?働くことの価値、金融や株式のロジックが楽しく学べます。また、この本のもう一つのテーマは、「仕事の意義」にあります。部員のお金持ちの少女は、自分の家の稼業に疑問をもっており、この少女がそれにどう向き合うかも、この本のストーリーの軸になっています。具体的には、「そろばん勘定クラブ」では、先生、昆虫学者、パン屋、高利貸し、パチンコ屋、地主、サラリーマン、銀行家、バイシュンフといった世の仕事が、6つの「お金を手に入れる手段」にどう対応するか?といったことを当てはめて、仕事の意義についても考えていきます。そのようにした顧問の先生の狙いとは?これも見どころです。

あまどく
あまどく

『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。 』は、人類史、世界史を経済の観点から捉えながらも、「資本」や「資本主義」などの経済の言葉を使わずに、シンプルで伝わり「やすい言葉で説明した本です。広いテーマを扱っていますが、個々のエピソードが面白く、ぐいぐいと読ませます。この本で、著者は、お金の起源や世界の格差の問題からサブプライムローンなどの現代社会が抱える金融の問題、更には仮想通貨までの多くのテーマをわかりやすく読者に伝えるため、「娘に語る」という手法をとっています。

このように、『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。 』は、壮大なテーマを、なぜ世界にはこんなに「格差」があるのか?という問いから始め、その上でどういう態度でそれに向き合えば良いかを、「娘に語る」ように説明した本です。

『おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密』も、「娘に語る」ことを目的とした本です。こちらは、身の回りの具体的な職業など、より身近な問題をテーマにしています。この本では、実際の中学生が抱くような、仕事やお金に関する疑問に真摯に答える内容となっています。経済を軸に話は進みますが、そこで得られる知見は、様々なポジションでの働くことの意義や様々な人が共存できる社会の役割など、倫理的な側面のものが多いです。

両作品ともに共通するのは、世界がより良い方向に向かえばいいという願いであるように思われました。




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