あらすじ
主人公ワイルドは、幼い頃森に置き去りにされ、森の中で1人で育ったという過去を持つ。どこから来たのか分からず、両親も不明である。
ワイルドは血縁者探しのDNA鑑定サイトに登録し、自身の生みの親を探す。ついに実父を見つけ、さらに母方の血縁者らしき人物から連絡を受ける。その人物はリアリティ番組のスターだったが、あることをきっかけに行方不明になっていた。ワイルドはその人物の調査を始めるが、やがて事件に巻き込まれる。
本作はシリーズ2作目で、前作では不明のままだったワイルドの出生の秘密について描かれるのだが、1作目が未読のままでも存分に楽しめる内容である。
ワイルドは人里離れたトレーラーハウスで生活するアウトサイダーである傍ら、天才調査員という肩書を持つ。
彼のキャラクターはもちろん、彼を取り巻く登場人物達も魅力的だ。特にワイルドの友人の母親である女性弁護士のへスターは逞しく魅力あふれるおばあちゃんで、2人の会話は軽快で楽しい。
内容も現実に起こり得そうな問題を取り扱っており、興味深い。複雑に絡み合った登場人物達が迎えるラストがどのようなものになるのか気になり、ページを捲る手が止まらなかった。
次に読む本
『湿地』アーナルデュル・インドリダソン
レイキャヴィクの湿地にある建物の地階で、老人の死体が発見された。
現場には争った痕跡も物色された形跡もなく、ドアも開けっ放しだったが、死体の上には紙に記されたメッセージが残されていた。
レイキャヴィク警察のベテラン捜査官エーレンデュルは、仲間と共に捜査を進めるが、やがて老人の隠された過去が明らかになる。
本作はアイスランドのミステリーだが、『湿地』という題名からも伝わる通り、アイスランドの湿っぽい気候と重苦しい事件が相まって、全体を通して陰鬱な雰囲気が漂っている。
エーレンデュルは離婚し2人の子供がいるが、度々登場する娘は麻薬の問題を抱えている。彼自身も悲しい過去を持つ。事件と並行して語られる主人公のストーリーも、とにかく暗いのだ。
しかし、無口ながら事件の捜査には熱血で、直球で物を言うエーレンデュルに次第に好感を持ってしまう。
そして簡潔な文章はとても読み易く、著者の犯罪への憎しみや女性に対する暴力への怒りが伝わってくる。本作は映画化もされており、合わせてお勧めしたい。
おススメポイント
この2冊に共通しているのは、どちらも事件の謎を解くカギとなるのがDNA、血縁の問題だという点だ。
国も異なり雰囲気も全く違う2冊だが、どちらも主人公が魅力的である。
『湿地』の著者は、あとがきで「どこかの国を知りたかったらミステリ小説を読めばいい」と述べている。社会問題を多く扱う北欧ミステリーは特にそう言えると思うが、異なる国のミステリーを読み比べてみるのも面白いかもしれない。
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