あらすじ
本書は人類とエネルギーの関わりという壮大なテーマを「量の追求」、「知の追究」、「心の探究」という三つの分野から捉え、私たちが今後もサステイナブルに暮らしていく上での多数の示唆を提供してくれている。
「量の探求」では人類のエネルギー量拡大に対する果てしない欲望を具現化してきた5つのエネルギー革命の歴史を俯瞰。具体的には、①調理などへの火の利用、②農耕生活による太陽エネルギーを活用した食料の確保、③蒸気機関というエネルギー変換機械の発明、④電気の発明によるエネルギー変換の自由と場所の制約からの開放、⑤ハーバー・ボッシュ法に基づく人工肥料による農業の工業化、という5段階だ。
「知の探求」ではアリストテレス、ガリレオ、ニュートン、アインシュタインといった西洋科学における研究者たちのエネルギーに対する理論構築の歴史を振り返るとともに、熱力学の法則などをわかりやすく解説している。人類の歴史とは、エネルギーの力でひたすら「時間を早回しにすること」に価値を見出してきたのだ。動物が生涯に使うエネルギー量は、同じ重量での比較では変わら ないことをふまえ、人類は脳主導の思考法から脱却し、時間の歩みを身体に即したものへと取り戻すべきなのではと提言している。
「心の探求」では、「量の探求」にある最初のエネルギー革命をもたらした火の人間にとっての位置づけを様々な宗教世界の観点から掘り下げている。人類はその後哲学によって宗教における神の呪縛からの自由を獲得。さらに産業革命を経て資本主義という名の経済合理性を自らの心の拠り所としていったのだ。筆者はこの資本の神を、エネルギーを貪欲に吸収することで成長していくエネルギーの化身、モンスターと述べている。
最後に筆者は太陽エネルギーを中心とする分散型エネルギー供給と自然環境保護に向けた社会の体制づくりとともに、個人としてもより少ないエネルギー消費で幸せを感じることができるように自らの脳を意識付けすることが重要であると結んでいる。
人類のエネルギー活用の歴史を紐解いてわかったこと。それはひたすら時間を短縮して自ら脳の欲望を最大化し、その代償として人間同士の対立や自然環境という自らの生活基盤を危うくしてしまったこと。そしてその時間感覚は動物としての人間の身体からは大いに無理があると。。
身近な生活を振り返っても、音声・映像メディアの短尺化や倍速再生機能、食べ物や飲食店サービスの時短メニュー、様々な広告で見かける「今すぐ」、「30秒だけで」といったキャッチコピーなど、人間の時間早回し欲求は凄まじいですね。
一方でこうした再現のない時短渇望から自由になりたいという思いをとらえたサービスやライフスタイルも生まれてきています。例えば、脱スマホ生活、インスタント食品の対極にある食材からこだわったスローフード、自然豊かな環境でのワーケーションなどです。
速すぎても遅すぎても満足しないのが人間です。うまく人間、社会と付き合っていきましょう。
次に読む本
世界失敗製品図鑑(荒木博行)
国内外の著名企業の製品・サービス・事業で高い期待値を持ってスタートしながらも、想定通りの結果を出せずに挫折した製品・サービス・事業を失敗事例として学びにつなげているのが本書だ。
事業構造そのものを学ぶことができる第一部には、ユーザー視点に欠けていたアマゾンのファイアフォンやグーグルグラス、競争ルールを見誤ったウィンドウズフォンやWii Uが、事業を取り巻く力学を学べる二部には、経済危機に見舞われて失敗したサムソン自動車や主要事業の不調の煽りを受けたアップルのニュートンなどの失敗事例がまとめられている。
他社の成功事例も学べる要素はありますが、どうしても時代の特殊環境やその会社特有事情が影響しがちです。一方失敗事例はその要因を抽象化して蓄積しておくと、自社の新たな取組みにおけるリスク管理に活かせる余地が大きいように思います。
本書における失敗事例を作った各社の多くはその教訓を次の取り組みに活かして成長していることからも、失敗をネガティブな事象として捉えるのでなく次の機会につなげられるチャレンジとして貪欲に学びを活かし続ける姿勢の大事さがわかりますね。
人間が時間を短縮したいという欲望に基づき、各種エネルギーを活用して生み出したものの、日の目を見ることなく「失敗」となった製品が多数掲載されているのが後者の本です。
例えばグーグルグラスは、いちいちスマホを取り出して調べることなく「視る」だけで現実世界に関わる付加情報を入手できるAR製品でした。普及していたら、スマホよりも更に時間を短縮できていたはずですね。
他の失敗製品からも、人間の時間短縮に向けた欲望の歴史を垣間見ることができます。昨今の先端テクノロジーのテーマを見ても、AI、自動運転車、5G、メタバース、3Dプリンター、培養肉などなどまだまだエネルギーを求める資本の神は猛威をふるいそうです。
ますます自らの脳をうまく飼い慣らしていくことが必要ですね。
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