あらすじ
「汎用型AIが登場するであろう2030年頃には、現在のホワイトカラー職務の多くが代替される可能性がある」そんな調査結果もある昨今。万人がAIの影響を受ける未来に向けて読んでおきたいこの一冊…「AIの壁」!言わずと知れた昆虫大好き博識好々爺・養老孟司先生が、AIと関わりの深い各界の著名人と、めくるめく対談を繰り広げます。
対談相手は「棋士・羽生善治」「経済学者・井上智洋氏」「哲学者・岡本裕一朗氏」「数学者・新井紀子」と、これまた凄いメンツが揃っていて、コース料理で言うと全てがメインディッシュという感じ…うん、お腹いっぱいの一冊です。
だけど、その「風味」は対談相手によって異なり、飽きさせません。縦横無尽に話が展開するのも魅力のひとつ。養老先生×日本の4つの知性が考える「AI」と「日本の未来」。そこから見えてくることを「自分事」として考えることで、人生に大きな影響や転機を与えてくれるかもしれません。
色んな見方ができるし、自分の立場で色んな読み方ができる本だと思います。私は「子育て目線」から読みました。子供が成人した時、今とは全く違う世界が広がっているかもしれない…それに対応・対抗するにはどうすれば良いんだろう…と。
少し怖かったのは「不老階級」と「不要階級」という分化の発想。そんな中で子どもに生き抜く知恵をつけるにはどうすれば…と、ちょっと途方にくれました。
答えはないんですけどね。でもきっと、それが「人間らしさ」なんですよね。
・「AIが提示するのは『問い』と『答え』だけ」(羽生)
・「教育は『積んでいく工程』」(養老)
そんなところに、これからの時代の子育てのヒントがあるように思います。
この本は「AIの存在」を問うことで「人間らしさとは何か」を問い直す一冊です。本書の中に「哲学とは最初に前提を問う学問」とありましたが、この本で惹起されるのはまさにそれ。「自分たちの生きている時代に一体何が起こっているのか」、そしてこの歯止めの効かないAI化の波の中で「自分たちはヒトとして、どんな生き方を選択するのか」…。
不安もあるけれど、やっぱり「にんげんっていいな♪」って思わせてくれるのが、養老孟子先生の言葉の魅力。読むことで今の自分の立ち位置を確認し、未来に向けて生き方の微調整を行っていく…そんなきっかけになるような凄く刺激的な一冊でした。
次に読む本
センス・オブ・ワンダー(レイチェル・L. カーソン )
環境汚染への警鐘を鳴らした名著「沈黙の春」の著者、レイチェル・L・カーソンの遺作でもある本書。この中で描かれているのは、彼女が姪の息子・ロジャーと毎年夏に過ごしたメーン州の美しい海岸と森です。
豊かな自然に囲まれた日々…瑞々しい臨場感を伴って描かれている本作で、彼女が強く伝えていること…それは、すべての子どもが生まれながらに持っている「センス・オブ・ワンダー」(神秘さや不思議さに目を見はる感性)を大切にしてほしいという切なる「願い」です。
子どもの「センス・オブ・ワンダー」を守るために、「わたしたちが住んでいる世界のよろこび、感激、神秘などを子どもといっしょに再発見し、感動を分かち合ってくれる大人が、すくなくともひとり、そばにいる」ように…そんな祈りにも似たメッセージが、美しい言葉と写真と共に伝わってきて、読みながら心が震えてくるような珠玉の一冊です。
「針葉樹の葉は銀色のさやをまとい、シダ類はまるで熱帯ジャングルのように青々と茂り、そのとがった一枚一枚の葉先からは水晶のようなしずくをしたたらせます。」(本文より)
美しい写真と共に綴られたメーン州の色鮮やかな情景は、温度や匂いまでも想起させ、大人がどこかに置いてきてしまった「センス・オブ・ワンダー」も思い出させてくれます。
「どうして?」「どうなってるの?」未知のものに触れた時の、好奇心とトキメキと少しの不安がないまぜになったような気持ち…すっかり忘れていたなぁ。「わぁ!」と心が弾むような感動は、物質的なものを得た時の喜びとは質が全く異なり、いつ思い出しても色あせることがないでしょう。そんな「宝物」が心にたくさんあることは、大人になった時に人としての基盤・根っことして、誰よりもその子を支えてくれるのかもしれません。
「『知る』ことは『感じる』ことの半分も重要ではないと固く信じています。」(本文より)
効率優先の世界でつい後回しにしがちな、こんな感性の育成…つい「早く、早く!」って焦ってしまうけれど、大切にできるよう心がけたいな…と読むたびに思わせてくれます。ちょっと立ち止まって子どもと夕陽を見たりしてね(*’ω’*)
「AIの壁」を読みながら思ったのは「人間って結局何なんだろう?」ってことなんですよね。
人間を人間たらしめているもの…「人らしさ」って結局、なに?
その最適解をいつも出せない。でもきっと、それが人間の良いところ。
効率だけを求めるのではなくプロセス自体を楽しむことは人間の専売特許で、AIには出来ないんじゃないかな?
「アートが分かるAIは存在可能か」という議論もあったけれど、答えのない「遊び」を遊べる才能は人間…特に子どもが得意とするところだと思います。AI化の波に負けないように…と、頑張ってソコを削るのは本末転倒なのかもしれません。
昆虫LOVEの養老先生も仰っています…「五感を鍛えろ」!
引用されていたブルース・リーの言葉も秀逸です…「考えるな、感じろ(Don’t think! Feel.)」!
そして、「感じる」ってどういうこと?となった時に、読んでいただきたいのが「センス・オブ・ワンダー」。
そこにあるのは、自然への畏怖や敬意…自分たちは大きな宇宙の中で生きていること、超えてはいけない一線があること。そんな「人としての感覚」をきちんと宿した「人間」こそ、AIに使われたり振り回されたりすることなく、AIをツールとして上手く使えるんじゃないかなぁ、と私は考えています。
コメントを残す