あらすじ
2020年に話題になった(「紀伊國屋じんぶん大賞2021 読者と選ぶ人文書ベスト30」では第1位となった)「仕事」に関する本を紹介します。世に蔓延する何のためにあるのかわからないクソ仕事(ブルシット・ジョブ)の存在を明らかにし、ブルシット・ジョブに従事する人の苦しみや、なんでそんなものが存在するのかを論じた本です。
「ブルシット・ジョブ」とは、「本人でさえ正当化できないくらい完全に無意味・不必要で有害でもある有償の雇用の形態であるが、本人はそうではないと取り繕わなければならないように感じている仕事」と定義されます。
この本では、「ブルシット・ジョブ」を以下の5種類に分類します。
- フランキー誰かを偉そうに見せるだけの仕事。
- グーン他人を操ろうとしたり脅す仕事。
- ダクト・テーパーシステムの欠陥を解決するためだけにある仕事。
- ボックス・ティッカーどうせ読まれない書類を作るだけの仕事。
- タスクマスター仕事を振り分けるだけの仕事。
著者は、近年の金融資本の増大に伴い、金融や情報関連の(ブルシット・ジョブに発展しやすい)仕事が増加したことが、現代人がやりがいのない仕事に長時間拘束されることなにった理由の一つだと指摘します。
また、この本では、ブルシット・ジョブをしている人の苦しみについて問題提起します。意味のない仕事は、その仕事に従事する人を惨めな気持ちにさせるだけでなく、時には脳に損傷を起こすほどのダメージを与えるのだそうです。すると、ブルシット・ジョブは、人からその喜びを取り上げる精神的暴力だと言えます。ブルシット・ジョブは、社会的価値が低いにも関わらず、高給であることが多いようです。その一方、社会的価値の高いエッセンシャルワーカーの給料が低いという問題があります。奇妙なことに、労働の社会的価値が高まるほどその仕事の経済的価値が下がっているケースもあります。この本では、この点も問題にします。
この本は、現代の資本主義社会において、あるわけないという思い込み故にこれまでほとんど言われなかった「ブルシット・ジョブ」というものを正面切って論じたものです。
人類学者である著者の手にかかれば、僕たちが空気のように当たり前に感じている民主主義・資本主義社会が、まるで奇妙な慣習にとらわれた未開の部族の社会のように描かれます。
次に読む本
『隷属なき道』(ルドガー・ブレグマン』
この本は、「ベーシックインカム」を行うメリットや、それが実現可能であることの裏付けを示した本です。「ベーシックインカム」が日本で話題になったころに翻訳され話題になりました。
産業革命以降、人類の労働時間は減り続け、2030年までには、週の労働時間は15時間までになると予測されました。しかし、1980年以降、労働時間は上昇に転じています。しかも技術の進歩に伴い生産性は上がっているはずなのに労働者の実質賃金は下がり、格差は拡大するばかりで、週15時間(1日3時間)労働など実現できそうにもない状況です。
そうした問題を解決する方法として著者が提案するのが「ベーシックインカム」です。政策による福祉プログラム(生活保護等)を全て廃止し、その代わり全国民に一律のお金を直接給付するというものです。著者は、イギリスで行われた現金給付の実験を根拠として取り上げ、現金を給付しても人は怠けるのでなく、より価値のある仕事を始め、ホームレスなどの貧しい人は、そのお金を使って貧困から抜け出す努力を自分ですると主張します。
2冊とも、テクノロジーが進歩し、労働時間を短縮できる道があったにも関わらず、かえって無駄な仕事が増え、現代人の労働時間が長くなっていることのジレンマを問題提起しています。
『ブルシット・ジョブ』では、あまり政策的な提言は好まないというものの、この本で論じてきた仕事に関する問題を終結させる構想の一案を示しています。
それが「ベーシックインカム」です。著者によれば、仕事と生活とを切り離すことができれば、ブルシット・ジョブから始まるこの本で論じてきた問題を終わらせることができるといいます。
『隷属なき道』では、ベーシックインカムを実現するための道のりを示しています。
ベーシックインカムは、現実的には厳しいだろうという指摘もあります。仕事と生活とを切り離すだけの現金給付を行うコストを賄うには、福祉プログラム(生活保護等)の全て廃止したとしても全然足りないからです。
しかしこの本では、偉大なアイデアは必ず社会を変えること、理想を提示することが大切であることを説きます。
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