あらすじ
父が結婚相談所で出会い、義母の座に収まった女の目的は金なのではないか?
91歳の父耕造が倒れたとの連絡を受け、病院に駆け付けた娘の尚子と朋美は、父の後妻小夜子の言動に疑いを持ち始めます。
小夜子の過去を探るうち、次々と明らかになる怖ろしい「後妻業」の手口。
過去に小夜子と結婚した男は、みな謎の「変死」を遂げていました。
冷酷無比に男を惑わし金を搾り取る小夜子。小夜子と結託し金づるとなる老人を紹介する結婚相談所の柏木。柏木と小夜子を追いながら一攫千金を狙う探偵の本多。
色と金の欲望に絡み取られた登場人物が織りなす、ダークでスリリングな犯罪小説です。
『後妻業』はテレビドラマ、映画と映像化されたことで知っている人も多いのではないでしょうか。69歳という自身も「高齢者」の年齢に到達しているにもかかわらず、色気で男を次々篭絡していく小夜子と、その色気にむしゃぶりつく老人の姿には人の欲望の底知れなさを感じさせます。
小夜子の仕事上のパートナー柏木や二人を追う探偵本多の欲望も膨れ上がり、ページをめくる手が止まらない1冊です。ダークな作風を好む読者にお勧めしたいですね。
次に読む本
『後妻業』で孤独な老人の欲望を操るコワい女小夜子に圧倒されたら、次は居場所を求める主婦の心を巧みに利用する悪女の犯罪小説『ウツボカヅラの甘い息』を読んでみませんか。
『ウツボカヅラの甘い息(著:柚木裕子)』
『ウツボカヅラの甘い息』は高村文江が中学の同級生杉浦加奈子と再会を果たすことから始まる犯罪小説です。
束縛の強い夫と2人の娘の育児に翻弄され、解離性障害を患っている文江ですが、中学時代は美少女として名をはせていました。
今はストレスによる過食でめっきり太ってしまった文江ですが、加奈子は文江にかつての輝きを取り戻し、仕事のパートナーにならないかと誘います。加奈子はフランスの有名化粧会社と販売契約を結んでいるといいます。そしてその化粧品を売るセミナーの講師として文江を雇いたいというのです。月に50万円という破格の値段で。
始めは迷っていた文江。しかし加奈子の言葉に刺激され、ダイエットで美しさを取り戻してからはしだいにやる気に。いつの間にか仕事にのめりこんでいきます。
しかしその裏では、ある殺人事件の捜査が進行していました。
「ウツボカヅラ」とは、葉の先端にある袋に虫を取り込んで養分とする食虫植物のことです。居場所のない女性を獲物とし、消化していく恐ろしい犯人の姿が小説の題名に現れています。
『後妻業』ではターゲットが老人、『ウツボカヅラの甘い息』ではターゲットが中年女性という違いはありますが、犯人が漬け込むのは同じ被害者の心の空洞です。
耕造の心には妻を亡くした寂しさが、文江の心には家庭に閉じ込められた閉塞感がつきまとっています。
巧妙な犯人たちの手口に驚きながら、もし自分が同じような空洞を抱えていたら犯罪に巻き込まれてしまわないだろうかとぞっとしてしまうのは2冊に共通する感覚です。小夜子や加奈子のような悪女が身近にいないとは限りません。うまい話にはくれぐれもご用心ください…。
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