あらすじ
心理カウンセラーとして『REMカウンセリングルーム』に勤務する来生夢衣の元に、ある時、現職の刑事・麻生健介が訪れる。
彼は、毎夜ある悪夢にうなされ、極度の不眠症に苦しんでいた。
刑事の話を聞くうちに、彼が見るという悪夢に問題を解決するヒントがあると考えた夢衣は、「他人の夢の中に入り込む」という特殊な能力を駆使して、彼と夢を共有する。
そして、刑事を悩ませる夢の中で、夢衣が見たものとは?

主人公が他人の夢の中に入り込み、様々な事件を解決するという筋立てをみれば、例えばクリストファー・ノーラン監督の映画『インセプション』や、アニメ化も話題を呼んだ筒井康隆のSF小説『パプリカ』などが思い浮かびます。
これらの作品が、巨悪や組織と対峙する主人公を描いているとすれば、『夢のカルテ』は、もう少し規模が小さく、主人公が向き合う対象として、外側だけでなく内側、つまり他者だけではなく自分自身も含まれていることが特徴だと感じました。
確かに、ヒロインの心理カウンセラー・来生夢衣が事件に関係する人物の夢を覗くことで様々な事件を解決に導くという基本的なプロットに着目すれば、この物語は一種の「特殊状況ミステリ」であると言えます。
しかし、この作品の場合は事件の謎解きよりもむしろ、主役の2人を中心とした各登場人物の心理描写に重きを置いている印象があり、読後感は温かみにあふれているため、「殺伐とした骨太のミステリはちょっと苦手」という方にも安心しておすすめできるのです。
死刑制度の是非を問いかける衝撃作『13階段』で江戸川乱歩賞を受賞し、鮮烈なデビューを飾った高野和明は、硬派なクライムサスペンスを数多く発表しているような印象がやや強め。
しかし一方で、例えば『幽霊人命救助隊』や『踏切の幽霊』といったファンタジックな作品も秀作ぞろいで、『夢のカルテ』もこちらの系譜に含まれます。
さらにこの作品は、高野和明にとって唯一、単独名義の作品ではなく、盟友・坂上仁志とともに生み出されたという特殊な経緯があるため、ほかの高野作品とは明らかに異なる特徴があります。
具体的には、○○の描写を前面に打ち出していること。
ネタバレはしませんので、伏字にはどのような言葉が当てはまるか、ご自身の目で確かめてください。
なお、文庫版の解説に、伏字のヒントが書かれているかもしれません。
次に読む本
『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』西多昌規
夜にぐっすり眠ると、翌朝の目覚めがすっきりし、体調が整うのはなぜか?
これは単なる思い込みではなく、はっきりとした医学的な根拠があります。
規則正しい十分な睡眠が、体内のホルモンバランスを整え、免疫力が向上し、さらに脳が冴え、極め付きには筋肉の成長や美容の観点からも大きなメリットがあると言います。
現在の医学においても謎に満ちた「睡眠中の人体のメカニズム」に迫る意欲的な1冊。

著者の西多昌規は精神科医でありながら、早稲田大学教授、早稲田大学睡眠研究所所長といった肩書きも持っています。
ひとことで言うと「睡眠のプロ」であり、紹介した書籍のほかに『休む技術』(大和書房)など多数の著作が知られていますが、今回は、1冊目に紹介した『夢のカルテ』との関連性も考慮して「夢」に着目した1冊を選んでみました。
本書でも触れられていますが、私たちが毎晩見る夢については、21世紀の幕開けから四半世紀が過ぎた現在でも、まだまだわかっていないことが多いのだそう。
一方で、長年の研究を重ねて判明してきた事実も多くあり、私自身、この本を読んで、素直に驚いたこともいくつかあります。
例えば、体内時計は脳だけでなく、胃腸や肝臓、心臓などあらゆる末梢の器官(臓器)に備わっています。だからこそ、生体のリズム(体内時計)を乱さないような規則正しい生活が重要なのです。
徹夜明けの眠い状態でベッドに飛び込み、そのまま7時間眠ったとして、思った以上に体の疲れが抜けないのは、そもそも体内時計が狂ってしまっているから。
なるほどと思いながら、興味深くページをめくっていました。
本書では、まず第1章で睡眠や生体リズムの基礎について解説してから、第2章以降は内分泌系、つまりホルモンの分泌に関わる体内の系統、免疫系、消化器系、呼吸器系、循環器系、そして脳神経系ではそれぞれどのような変化が起こっているのかということを順番に紐解いています。
その中でも、1冊目に取り上げた『夢のカルテ』に深く関係する部分は脳神経系のエピソードなので、この章に着目すると、いろいろと面白いことが見えてきます。
例えば、
しばしば耳にする「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の違いはなにか?
夢を見るのはなぜか? 夢にはどのような意味があるのか?
悪夢を見てしまう理由はどこにあるのか?
『夢のカルテ』の中にある描写とは少し異なり、あくまで現代の医学や科学など専門的な知見に基づいて判明していることが、わかりやすく解説されています。
おススメポイント

紹介した2冊の共通点は、「夢」あるいは「睡眠」です。
高野和明の『夢のカルテ』の中で、夢を見るという現象がかなりファンタジックに語られていたため、それならば現実世界における「睡眠」や「夢」といった現象はどのように研究されているのかということが気になりました。
『夢のカルテ』において、ヒロインの夢衣は、夢分析の指標としてユングやフロイトの名前を口にし、両者が夢という現象をどのように捉えていたかについても丁寧に解説しています。
もちろん現在の精神医学においても、過去に重要な足跡を残したという意味で両者の名前が出てくるケースはありますが、現在の精神医学、あるいは科学など様々な分野で「根拠が乏しい」といった理由から彼らの学説は否定されることが多くなっています。
しかし、現代の科学や医学といったん切り離してユングやフロイトの学説を考えてみると、ファンタジックな物語と非常に相性がよく、『夢のカルテ』においてもそういったメリットが存分に活かされているように感じました。
この作品は、高野和明の作品群において異色作だと説明しましたが、氏の作品はすべて読んでいるので、また機会があれば別のおすすめを紹介したいです。
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