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『はるを呼ぶ』著者:実石沙枝子の次に読む本は

あらすじ

閉鎖的な小さい田舎町に住む高校三年生の深川晴奈。
10歳上の姉・小春は10年前に失踪したまま、その行方は分かっていない。
その失踪事件のため、母親の心は壊れ、父親は家を出て行き、深川家は長い間機能を失っている。
そんなある日、海岸近くを歩いていた晴奈のそばの公衆電話から着信音が響く。その電話に出ると、相手は失踪した姉・小春からのものだった。
本当に生きている姉なのか…と疑問を抱きながら、晴奈は関係が絶たれていた友に話しかけ、家を出ていった父親とも再び会おうと決意する。
晴奈の生活がハッキリと変わり始めているが、10年間の理不尽な苦しみは確実に彼女の心を蝕んでいた。
この色あせて、痩せ細っていく町で深川家の四人は再び家族として動き出させるのか。

姉の失踪から母親の心は壊れ、父親は逃走した。
それから10年の月日を過ごした主人公・晴奈の心も壊れかかっている。
8歳の時から耐え続けている自分に対して労いの気持ちはみじんも抱いていない。
それどころか、こんなに家がうまくいっていないのは自分のせいなのでは?とすら考え、自分を責める。
姉の失踪の真実や、着信のあった公衆電話で失踪した姉と話す不思議さをテーマとしたミステリとも言えるが、その謎以上に、心身の限界点が近づいている晴奈の状態が際立つ。
若者としての当然の喜びを得られないことを不満に思わず、諦めることが一番簡単で一番楽と、なんの疑いも抱かない。
閉鎖的な田舎町の大人たちからの助けはない。ただ、晴奈の姿を遠くから眺めて、静かに噂話を続けるだけ。
家から出ていった父親との再会を果たしても、この父親から出てくる言葉に晴奈への救いは少しもない。
唯一の希望の光であった、指定校枠での合格を得ていた大学進学も諦めざるを得なくなってきた時、晴奈の感情が爆発する。
この場面がこの作品、最大の救いかもしれない。
いいぞ晴奈!もっと怒れ!もっと叫べ!10年間の理不尽を叩きつけろ!と本音むき出しの晴奈を応援した。
この10年間の忍耐が晴奈にとっての厳冬だったとしたら、この荒ぶる姿は本当に激しい春一番の暴風であったのかもしれない。
物語のラストには彼女なりの春が訪れる予感を抱かせるものがあった。
一人の友人が言う「わたしはまた晴奈と会いたいけどさ、このままずっと帰ってこなくてもいいと思うよ」という言葉に強く共感した。
公衆電話で話した姉は本物だったのか、晴奈の苦しみ抜いた心が生んだ、自分への許しの声だったのか…。正直、正解はなんでも良い。
晴奈が迎える新しい春が穏やかな季節であることだけを願った。

次に読む本

『キッズ・アー・オールライト』著者:丸山正樹

コロナ禍の終息の見えない日本で、日系ブラジル人のシバリとヤングケアラーである女子高生・真澄の物語が、NPO法人『子供の家』所属の支援者たちを通じて、同時進行で描かれる。
日系ブラジル人でありながら、日本人からは親しい存在とはされていない、シバリやその仲間たち。
隙あらば金のために犯罪に手を染めてしまいそうな誘惑にさらされる仲間たちを、教育や職への手助けをしようとするシバリの苦闘。
そして、両親はいるももの、高校生の生活とは呼べないような祖母の介護の日々に限界を滲ませる真澄。
同じような環境下で育った『子供の家』の通称・うさこが彼女の本心を聞き出そうと、奮闘する。
子供たちの人権を守る理想を胸に抱く『子供の家』のスタッフたちと、その理想実現にはほど遠い、社会で起きているマイノリティの現実。
スタッフたちの差し伸ばす手は、苦しみの渦から子供たちを救えるのか。

いまだにコロナ禍の終息の見えない、名古屋市と思われる街が舞台。
子供の問題全般に関わるNPO団体『子供の家』で、あるSNSでの、〈このまましんだら楽になる?〉〈このままだとあたし おばあちゃんころしちゃうかも〉という、ある女子高生ヤングケアラーの危機感が滲みでるような発信を見つける。
二十歳のスタッフである通称・うさこは年齢が近いこともあり、このSNSで呟いた女子高生・真澄と静かに距離を縮めていく。
限界が近い真澄に向き合ううさこが非常に魅力的だ。
頭が抜群にキレるわけではない。豊富な人生経験があるわけでもない。なにより、うさこ自身、自分が誰かを救えるという自負などがない。ただ静かに真澄の苦しみ以外の部分を一緒にしゃべって、一緒に笑う。
不器用ながら、うさこは真澄にあった大人や社会への心のバリケードを壊すのではなく「ほぐしていく」。
この物語と同時に、日系ブラジル人のシバリが、不穏な空気が漂い始めている、仲間の日系ブラジル人たちとの奮闘も描かれるのだが、このシバリも自分の辛い過去から子供に対しての限りない愛情深さを持つが、同時にその優しさが危うさをも感じさせる。
この作品でもっとも印象的であろう「子供は、誰かへの『責任』なんて考えなくていい。自分のことだけを、自分が毎日をどうやって楽しく過ごせるかを考えて生きていればいい」というフレーズ。
すべての子供がそんなふうには生きていくことはできないと分かっていても、苦しむマイノリティの子供に対して理想の追求と実現を諦めることのないスタッフたち。
物語の結末に書かれる二行の言葉に、絶えることのない心配と同時に、綺麗事ではない、ほんの少しの救いも感じさせられる。

おススメポイント

『はるを呼ぶ』の主人公・晴奈はあまりにも孤立した若者で、物語の中では18歳になってはいるものの、それ以前の9年間は「ヤングケアラー」と呼べる存在だった(「ヤングケアラー」の定義は18歳未満)。
自分の楽しみを求めないどころか、自分の努力が足りないから家の中がうまくいっていないと自分を責める。
『キッズ・アー・オールライト』に登場する真澄もまた、17歳の女子高生でありながら「ヤングケアラー」として、心身の限界が間近に迫ってきている。
ただ、真澄には救いの手が差し伸ばされ、一人の子供として生きる権利を知り、それを取り戻す救いがあった。
真澄に比べると晴奈の孤独は、あまりにも雑に扱われ、いったん限界点に達してしまう。
『キッズ…』に登場するNPO団体のスタッフが、もし、この晴奈の存在を知ったならば、何もかもを差し置いて彼女の救助に向かうだろう。
作品を越えてまで、この助けを晴奈にも届けたいと思わせる。
自己否定にドップリと浸かりながらも忍耐を続ける一歳違いの女子高生二人。彼女たちの両親も作品中にそれぞれ出てくるが、毒親一歩手前のような存在感が、また印象的だ。
子供と大人の境目であるものの、まだまだ未成熟な若者の孤独。
助けを求める声が小さすぎるのか、元よりそんな声を発してすらいないのか…。
何歳になっても未熟な人間ばかりではあったとしても、自分の置かれている環境が異常だとすら思ってもいない子供たちへのサポートを考えさせられる二つの作品だった。




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