あらすじ
40歳になった猪名川健人は、学生時代からずっと同じマンションに住んでいる。在宅のwebライターとして生計を立てている健人は、ホームページに載せる三文記事を書くことで、何とか一人暮らしするだけの収入を得ており、人との交流がない生活を送っている。
ある日マンション大家の田中宏に仕事を紹介されるが、それは婚活パーティーの運営をしている会社のホームページに載せる紹介記事を書いてほしいというものだった。健人はその会社の業務を理解するため、婚活パーティーに参加することになるのだが…。
主人公の健人の魅力は、なんといってもその流されやすさにあると思う。成り行きで紹介された仕事をいつの間にか引き受けることになり、気がつくと婚活パーティーに参加している。最終的にはパーティー主催者側の仕事を楽しくこなしているのだ。
始めはもちろん頼まれて仕方なくやっているにも関わらず、気づけばパーティー参加者に感情移入しており、見事な立ち回りや対応をして社長に褒められたりするのが可笑しい。それというのも、「婚活マエストロ」と呼ばれる鏡原奈緒子の仕事への熱い想いに影響を受けてのことだ。
健人は、たまに会った同級生が企業で働いていたり結婚して子供がいるという事実に落ち込むことはあっても、決して悲壮感漂う程ではない。何だか人生で起こることを淡々と受け入れているところが彼の魅力であり、そんなところが人に安心感を与える気がする。
パーティー参加者もバラエティ豊かで、特にシニア婚活パーティーの様子は微笑ましく、クスッと笑ってしまうようなエピソードが度々ある。
人生どこで何が起こるか分からない。
40歳でもシニアでも、外に出ないような生活を送っていても、何かがきっかけで人生はガラッと変わるのだ。
心が少し疲れている時に読んでほっと出来る小説だと思う。
次に読む本
『本日は大安なり』 辻村 深月
結婚情報誌で毎回トップを飾る、理想の式場であるホテル・アールマティ。
日曜日で大安であるこの日、アールマティでは4組の結婚式が予定されていた。
幸せな門出となるはずのこの日に、新郎新婦やその家族たち、そしてウェディングプランナー、それぞれの思惑や感情が交錯していく。
題名からして幸せな雰囲気の話かと思い読み始めたのだが、冒頭からいきなり不穏な空気を漂わせ始める。物語は新婦やその家族、そしてウェディングプランナーの山井多香子と、視点を変えながら描かれていくのだが、読み進めるほどにまるでミステリーのような様相すら帯びてくる。
準備段階からクレームばかりの新婦や、ダメ男すぎる新郎、そして自身が双子の姉妹である新婦は、何やら企んでいる。憧れの叔母が結婚してしまうがその相手の秘密を知ってしまった少年は、式が中止になってほしいと願っている。そしてプロ意識とプライドを持って仕事に邁進する山井も、式の準備を進めながら実は複雑な想いを抱えていた。
結末は個人的には納得できない部分もありはしたが、概ね幸せなもので、結婚式場の裏側が垣間見えるのは面白いし、様々な人間模様を堪能できる小説だった。
おススメポイント
2冊とも結婚にまつわる人間模様を描いた小説。
どちらの小説にも、婚活マエストロの鏡原とウェディングプランナーの山井という、言うなれば人を幸せにする職業に情熱を持って取り組む女性が登場し、大事な役割を担っている。
結局のところ、結婚しようがしまいが幸せの形は人それぞれということなのだが、どんな状況でも人は変われる、いつからでも人は幸せになれるのだということが伝わる2冊だと思う。
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