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Blue(川野芽生)の次に読む本は

あらすじ

第百七十回芥川賞候補作。トランスジェンダーの主人公・真砂は高校の演劇部で『男』の枠から脱し人魚姫の役を演じることに喜びを感じる。高校卒業後、人魚姫の再演の話が持ち上がったが、再会した旧友に対し真砂は『主演は他をあたって』と固辞する。社会規範をはじめとする諸問題を理由に『女の子として生きること』を断念してしまっていたのだ。自分で選んだとはいえそもそも選択肢が与えられなかった彼女の切ない物語。

つらのかわあつこ

この作品を読むと性的マイノリティを中心に据えた語りを始めてしまいそうになるが、ここで真に論ずるべきは、関係性を共有している他者に合わせて自身を変化させることの必要性であるとわたしは考える。

高校生の時は自分に正直で、輪郭もはっきりしていた真砂(眞青)は、大学生になり、葉月に憐れみを向けてしまったが故に自分自身をも否定してしまった。結果、眞青は自分の輪郭を見失ったのだ。

人魚姫のミアも真砂と同じように、人間であるマルグレーテに憐れみを向け、人魚としての自分を否定し、薬を飲んで人間となった。それだけでなく、マルグレーテの王子殺しの罪をも被り、泡となって消えてしまった。

この“泡となって消える”という結末は自分自身を否定した者の末路を暗示しているように思える。

自分を偽ることは罪ではない。一種の処世術だし、場合によっては自分自身の心を救済することにも繋がるだろう。しかし自分を偽る中で自分自身を否定してしまうと心は容易く折れる。そしていつかは泡になって消えてしまうのだ。

眞青も人魚姫もわたしも、そして今この文章を読んでいるあなたや、そんなあなたと関係を共有しているあの人だって、誰もが相手に合わせて自分を変え続けているのだろう。しかし我々人間は果たして、どこまで自分を変え、偽り続けなければならないのだろうか。泡となって消えなければならない運命なのだろうか。そう考えさせられる一冊だった。

次に読む本

その日、朱音は空を飛んだ(武田彩乃)

女子高生・川崎朱音の自殺をきっかけに校内の人間関係が暴かれる小説。全七章で、各章毎に異なる視点から物語が進行し、登場人物らの本音や狂気が浮かび上がる。朱音の自殺は動画として出回るが不可解な点が多くあるため、ミステリ小説としても楽しめる。『響け! ユーフォニアム』の武田彩乃先生の作品だが、テイストはそれと比較するとかなり異質であり、とても青春とは呼べない黒々とした闇を覗かせる。

つらのかわあつこ

朱音という女子高生による飛び降り自殺が中心に物語が展開する。各章の冒頭には自殺に関するアンケートに対するクラスメイトの回答があり、章のタイトルは章末で明かされ、目次に至っては巻末でようやく完成する。そのギミックには舌を巻いた。章を経る毎に明かされる真実で朱音の自殺の詳細が紐解かれるのだが、その過程で朱音というひとりの少女をはじめとする、登場人物の高校生らの真の姿と、その底に潜む月並みでありながら酷くグロテスクな狂気が次々と明かされる。

幼馴染の純佳に執着するあまり歪んでゆく朱音を見ているうちに、最初に朱音に抱いていた印象ががらりと変わる。それだけでなく、様々な場面で登場人物のそれぞれに対する印象も目まぐるしく変遷し、こちらの認識の甘さを思い知らされる。人間とは本来底知れないものであり、その全てを知ることは出来ず、他者と関係性を共有したところでこちらが知覚できるのはあくまでそのほんの一部だけ。勝手に相手を分かった気になってしまうのは至極一般的な情動だが、しかしそれは言うまでもなく浅慮である。そういった諸々の感想を総括すると、人との関係性は安易に取り扱っていいものではないのだという確信に至った。

おススメポイント

つらのかわあつこ

人が人に向ける感情とそれに伴う人間性の変化が描かれており、考えさせられる読後感が残るため、こう選定させていただいた。共通点としてどちらも学生に焦点が当てられているという点も挙げられるが、これは思春期の情動の繊細さが人間の感情を語る上で欠かせないからではないかとわたしは考える。SNSの登場などもあり、現代人には人間関係の悩みがつきまとうが、今回紹介した作品はそれと向き合う一助となるのではないだろうか。

この記事を書いた人

つらのかわあつこ

つらのかわあつこ

ごきげんよう。ここを読めばプロフィールが分かると思った? 残念! 小説が好きだということ以外何もお教えいたしません。どれだけインターネットが発展しようと知りたいこと全てを簡単に知れるようにはならないと肝に銘じなさい。そしてUターンして読書をしなさい。あと勉強代として五千兆円を置いてゆきなさい。

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