黒沢咲『渚のリーチ』の次に読む本は、二宮敦人『世にも美しき数学者たちの日常』

あらすじ

「秒速で、恋に落ちた」

相手は、麻雀。
大学時代に出会い、その魅力のとりこになった渚。
それは社会人になっても変わることなく、特別な存在でありつづける。
だから、プロを目指すことはある種必然でもあった。
プロ試験に合格し、社会人とプロ雀士の二足のわらじを履くことになると、勝利を追い求めるあまり、自分の麻雀とはなにか迷い、葛藤する。
それでも、いつも立ちかえる想いは、

「私は私の、美しいと信じる麻雀を打つ。そして勝つ。」

さとーちょーだい

けれんみのない、真っ直ぐな物語。
麻雀物というと、わけありの男たちが人生を賭けて戦ったり、イカサマ手の習得に血道をあげたり、超人的な読みを披露したりといったイメージがあるが、本書には皆無。
実力を高めるために問題を解いたり、先輩の打ち方を学んだり、戦術書を読んだり、アスリートのように地道な作業をしている。
だからスポーツものを読んでいるようで、読後感もとても爽やかだ。
作者の黒沢咲さんはプロ雀士。実体験が多く反映されているようだが、プロが何を考え、どんなことに悩んでいるかが惜しげもなく書かれていて、非常に興味深い。

麻雀のルールを知らない人にも、ストーリーの中にうまいこと落とし込まれているので、最後まで楽しめる作品になっている。

次に読む本

二宮敦人『世にも美しき数学者たちの日常』

数学科出身の人とお見合いしたが、何を話せばいいかわからなかった。。。編集者のエピソードを聞いた作者は、数学者ってどんな人たちだろうと興味をもち、話をききにいく。

世間に背を向け、ひとり部屋にこもり溢れ出る数式をひたすら書き連ねている、というのが一般の人が漠然と抱えているイメージ。
しかし、数学者や数学に携わる人々に話をきくうちに、数学者さらには数学という学問のイメージもどんどん変わっていく。

数学者は旅に出て、さまざまな人とディスカッションする。
数学者同士はとてもフレンドリー。数学者はストレスのたまらない職業ナンバーワン。数学者は変わった人も多いけど、基本誠実。
そして、数学とは自由であり、美しく、実に人間的な、人間臭くいもので、はては数学とは心であると。

ひと口に数学といっても多岐にわたり、専門分野が違えばまったく異なる世界。
そこには、ひとつのイメージなんかに収まらない、人の数だけの数学が存在していた。
数学を愛しているということを共通項として。

さとーちょーだい

数学には苦手意識がある一方、憧れの気持ちもある。
おっかなびっくり読んだが、本書に出てくる数学者および数学に携わる人々がとても魅力的で、一気に惹き込まれた。

まず前提として、受験数学と、ここで語られる数学は全く違うものであるということ。
ある数学者は、受験数学は、誰かが一回解いたものを他の人に解かせるものだから、人類にとってはある意味無駄であると言っていたがなるほどと思った。
そうか、受験数学の先が面白いのか。

数学者が楽しいのは、未知のものを探しているからなのだろう。冒険家のように。

さとーちょーだい

『渚のリーチ!』には「美しい」という言葉がよく出てくる。

「その先にある、美しい和了りの風景を想像する」
「私だけに見えている和了りの美しさだって、きっと誰にも負けない」
「私は、私が美しいと思う麻雀を打ちたい。真っ白いキャンバスに美しい絵を描くように、理想のゴールに向かって歩んでいく」
「自分に与えられた配牌とツモで、美しい手をつくり上げていきたいんです」

これまで麻雀に美しいという見方があるとは考えたことがなかったが、どれも印象的な文章だ。

そのとき、『世にも美しき数学者たちの日常』を思いだした。
本書にも「美しい」という言葉はよく使われる。

「数学って美しいですよね。でもどんな風に美しいのか、詳しいところがよくわからないんですよね」
「美しい登山ルートを探すために、すでに解けた問題を別の方法で解くなんてこともありますよ」
「ただ好きだから向かい合うもの。美しいもの。そんな存在と一緒に人生を送っていけることは、確かに幸福に違いない」
「直感的にこの式は美しい、みたいなものを感じていた」
「数学的センスとは美的感覚の一種」
「だから本当に美しいと思うものをひたすら目指して。感度を高くして、その数式を信じる力を磨いた先に、何かしらの真理があるのかなと」

数学には「エレガントな解答」という表現がある。
解答にたどりつくことが重要ではない。重要なのはいかに美しい解法で解答にたどりつくか。
これは渚の麻雀への想いと共通している。
ただ、和了ればいいのではない、いかに美しい手で和了るか。

麻雀と数学が「美しい」という表現で一致することは、凄いことだと思う。




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