あらすじ
震災で親友を亡くした主人公。親友の恋人や家族は故人を悼みつつ日常を過ごすようになる。親友を思い続けたい主人公は、周囲の態度に苛立ち、形見の品を見ては悲しむ。自分の感情に、死者の追悼にどう折り合いをつけて、生きていくのか。
大事な人を亡くした人は悼み方はそれぞれで、悲しみを乗り越える時間も違った。
指標の一つは、依存度だと思う。精神的、肉体的、経済的…いろいろあるが、主人公は精神的な依存が強かった。
また、無意識か意識してるかわからないが、悲しんでいる自分に浸っている感じがした。親友の恋人や家族が平常に戻りつつあることに苛立ち、高校生たちの死者の弔いに疑問を感じ、自分の思考を正当化しようとしていたからだ。
高校生たちとの会話で「忘れないって、なにを忘れなければいいんだろう。」という言葉は印象に残った。忘れてはならないことが人には多いが、なんで忘れてはいけないのか、その理由を追求することが大事だと思った。
次に読む本
そこにはいない男たちについて(井上荒野)
夫が大嫌いで、いないものと思って生活する女。愛する夫を亡くし、哀しみながら料理を作る女。望まない人が生きて同じ空間にいる、望む人が死んでいても思いは残っている。孤独な女性二人が料理教室で出会い、日々を生きる。
いなくなってから初めて気付くことは多いと思う。生きていても、死んでいてもわからないこと、見えていないことはある。
側にいるうちは日常に忙殺され、個人にじっくり意識を向けることはないが、離れてみて思い返すと相手の存在の重さに気づくのだと思う。
日々思い悩み葛藤するが、二人の女性は前向きで強い感じが好き。男のことを思い出にしながら、次の出会いや未来に目をむけているラストが幸先よく感じる。
人を亡くし(失くし)、思い返す日々を両作品は描いている。
人は思い出を美化したがり、今の現状を過度に悲しむことがある。
過去の自分はよかった、その時側にいた人は素敵だった、その人に優しくしてあげた。
今の自分はこんなに悲しんでる、そんな自分には良心がある。
人の死は、人間の内面の複雑さをよく露わにさせると思った。
形見分けの場面では故人の思い方にいろんな感情が入り混じる。
その人の大切にしていたものは大事にしてあげたい。でも生々しくて、その人を思い出して悲しくて辛い。
ずっと自分のものとして残して、思っていたい。大事にできる人が他にいるなら手放しても構わない。
人の死を乗り越えるきかっけの一つでもある場面だ。
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