あらすじ
居酒屋はここ一年半のコロナ禍で最も厳しい業種の一つといえるでしょう。そんな環境下でも自分の原点の想いをベースにビジネスの本質を捉えて攻めの姿勢で望んでいるお店があります。
著者が店主をつとめる「やきとんユカちゃん」です。
本書では居酒屋ビジネス以外でも共通する重要なマーケティング視点が語られています。それは、ファンとなってくれるお客様の心をピンポイントで捉えることがお金を生み出す根本であること、顧客全員を相手にする必要はないこと、誰も出店しようとしないこのコロナ禍だからこそ優良物件が破格で手に入るという逆張り戦略、特別なお店になるには出店地域の情報収集をもとに顧客ニーズをよく分析すること、美味しさの根拠を端的に伝えるキラーフレーズが大事であること、仲間としての従業員に大切なことはその人間性であり、経営側は従業員がどうしたら良い人生を形成していけるかに注力することでお店の空気が良くなっていくことなどです。
IT業界にずっといる自分としては、居酒屋ビジネスはかなり縁遠い世界です。しかし遠いからこそ何か今まで気づいていない視点があるのではと思って本書を読んでみました。結論として、やはり発見や改めて確認できたことが複数ありました。
特に印象に残ったのは、マネジメントと従業員は100%わかりあえることはないという前提に立ち、マネジメント側はメンバーに自分のやり方を無理やり押し付けない考え方です。メンバーそれぞれがどうしたら良い人生を形成していけるかに注力していくことが従業員の幸せとやる気につながり、組織の空気も良くなっていくのです。ともすると組織上の上役は自分の方が知識・経験が豊富で偉いと勘違いし、メンバーに自分の価値観ややり方を押し付けてしまいがちです。先行きの見通しが難しく国全体としての経済成長が見込めない環境下で、こうした軍隊式のマネジメントはますますミスマッチとなってきていると思います。分かり合えない存在である様々なメンバーの成長をバックアップしつつ、組織全体としていかに業績を向上できるのか。そのために日頃から顧客視点で目を光らせて戦略・戦術やオペ-レーションを改善し続けること。これが現在のマネジメントに課せられた責任といえるでしょう。
次に読む本
「幸せな職場の経営学」(前野 隆司)
幸せの心的特性全体像を明らかにするために著者が行ったインターネットによるアンケート調査(母数は日本人1,500人)によれば、人が幸せになるためにはいくつかの因子があるという。それは「やってみよう!」という自己実現と成長の因子、「ありがとう!」というつながりと感謝の因子、「なんとかなる!」という前向きと楽観の因子、「ありのままに!」という独立と自分らしらの因子という4つである。そして人は幸福度が高いと創造性は3倍、生産性は31%高くなり、良好な人間関係を構築して職場での転職・離職・欠勤の割合も低くなるという。日本は先進国の中でも生産性が非常に低いことが知られている。この状態を改善していくには社員一人ひとりが主体性をもって働き幸せでいられるよう、組織のリーダーが思いやりやリスペクトをもって各メンバーに接していくことが必要なのだ。上意下達ではなく、傾聴と対話を通してリーダーとメンバーが相互理解を深めることが人間関係を良好なものにしていく。
本書ではこうした研究結果だけでなく、幸せな職場の実践例も紹介されている。全社員を家族と考え、その給与を毎年2%必ず上げて48期連続増収増益を達成している伊那食品工業株式会社、爆速経営を掲げてワン・オン・ワン・ミーティングやどこでもオフィスなどの新規施策を導入し、個人の力を最大限に活かしているヤフー株式会社、情報の透明性を徹底し、給与を皆で決めているという次世代型組織を構築しているダイヤモンドメディア株式会社、働く時間や場所を自由にして社員の生産性と幸福度の30%アップを達成しているユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社といった事例は、組織づくりを担うリーダーにとって非常に学びの多い内容だ。
幸せの4因子はシンプルでわかりやすいので、覚えていつでも自分の言動の拠り所として振り返られると、幸せな状態に近づいていけると思います。逆に、あまり幸せそうに見えない人は、他人の悪口を言ったり、過剰に心配性になっていたり、自分らしさを見失っていたりと、この4つ因子のどれかが逆向きになっていることがわかります。他人のネガティブサイドは反面教師として内省の材料として活かしていけるといいですね。他人を幸せにするにはまず自分が幸せでないと難しいと思います。
居酒屋店長と大学教授という、ある意味全く異なる世界に生きる二人著者の組織に対する考え方の根底にある共通性かわかります。
それは組織の生産性や業績向上には従業員一人ひとりの幸せ度合いが大きく寄与するということです。経営と従業員のみならず従業員同士もみな価値観やライフスタイルが異なる存在であり、完全に分かり合えることはないという前提でどうお互いに切磋琢磨して幸せでいられるか。この問いへの解を模索、実行し続けることがこれからの企業に求められるのでしょう。それがいわゆるウェルビーイングーーフィジカル、メンタル、ソーシャルな健康につながる道筋なのだと思います。
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