あらすじ
時は昭和44年、夏。岐阜大学に入学し日々のアルバイトに忙殺されていた広瀬創造は、夏季休暇を利用して故郷の日田に帰省する。当時の面影は残しつつも、大人の世界へ足を踏み入れている同郷の友人をみて、自分を見つめなおす創造。
将来への期待と不安が入り混じる中、日田で過した青年たちの夏を切り取った青春小説です。
初めてのドライブ、初めてのボーリング、初めての恋。
本作の主人公は高校まで受験勉強に明け暮れており、大学生の夏休みになって、突然世界がひらけたように様々な夏の経験をしていく。少し背伸びをして大人の世界に足を踏み入れる主人公に、大学一年のときの自分を重ねて読みました。
目をつぶれば創造たちが過ごした日田の夏が、すぐそこにあるような感覚。
日田に訪れたことはないのに、不思議と日田を身近に感じれるんですよね。
学生時代の夏休みって、長いようでとっても短い。
創造たちの夏もどこか刹那的で、それがまた夏の思い出を強くしているんだなと。
本作は、だれもがもっている夏の日の青春を思い出させてくれる一冊でした。
次に読む本
風の歌を聴け (村上春樹)
1970年の夏。東京から海辺の町に帰省した”僕”が、いつもビールを飲んで過ごす友人”鼠”と、バーで出会った指が4本しかない女の子と、夏の18日間を過ごす。70~80年代のサウンズとともに、退廃的なモラトリアムのなかに流れるそれぞれの哲学を綴った青春小説。
「風の歌を聴け」は、かの有名な村上春樹さんのデビュー作。
主人公の”僕”が、友人の”鼠”や女の子と夏を過ごすんですけど、若者のみなぎる情熱!!って感じではないんです。
せっかくの夏休みなのに、とにかく退屈。ビールを飲んで、海を眺めて、それの繰り返し。
けど、それがいいんです。
うだるような暑さのなか、生きるという原動力にスイッチが入らずとも、毎日は過ぎていくんですよね。
物語を通して鼠や女の子のどちらにテコ入れするでもない、等身大の僕の夏が描かれていました。
爽やかだけど少し虚しい、夏の終わりに読みたくなる一冊です。
「日田夏物語」と比べて「風の歌を聴け」はかなり古い作品ですが、同じ70年代の夏を描いた青春小説ということで選びました。
「日田夏物語」が夏の思い出をともに味わえる作品に対して、「風の歌を聴け」は、夏を過ごす青年たちを遠い場所から眺めているような作品です。
プロットは似ていても味わい方が異なる2作品を、ぜひご一読あれ。
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