あらすじ
「松井玲奈が『企む』恋愛小説集」と称された、全5話からなる短編小説集です。
結婚、セフレ、パパ活、キスだけの関係。
イマドキな4人の女の子たちが、それぞれの「居場所」を手探りで求める姿が描かれています。
登場する女の子たちの感情や行動を追っていくうちに、「さっきのは、そういうことだったの?!」と、気持ち良い驚きを味わえる、こまやかな伏線が張られたストーリー構成。最後の物語を読み終わったとき、もう一度最初から読みたくなる内容になっています。
「居場所」を探す女の子たちの物語に仕掛けられた、著者の「企み」とは何なのか。
日常の中でふと感じる寂しさや葛藤など、複雑で言語化しにくい「若者の心」を、リアルに描写した1冊です。
まず気になるのは、著者・松井玲奈の「企み」の正体。
その答えは、全5話の物語を順番に読んでいくことで、しっかりと理解することができます。
恋愛に付随する、白黒つけられない曖昧さに悩む女の子たちの心理描写が、繊細で印象的。SKE48というアイドルグループで活躍し、たくさんの年頃の女の子たちを身近で見てきた、彼女だからこそ描ける内容なのではないでしょうか。
そんな若者の恋愛小説として楽しめる一方、「企み」の正体を考えながら読み進められる謎解き小説の側面も持っており、一度で二度おいしい作品だと思います。
次に読む本
『死にがいを求めて生きているの』/朝井リョウ
自分は「何者」なのか、「何者」になれるのか。
そんな、自分の「居場所」を探してもがく、若者の葛藤が描かれた1冊です。
物語は、ある事故のせいで植物状態になってしまった少年と、その少年を献身的に見舞い続ける友人の話からスタート。数名の人物にスポットを当てながら進んでいきます。それぞれが「居場所」を求めた先で見つけたものを知ったとき、驚きと恐怖に包まれる内容です。
最後まで読むと、それまで読んできた物語の見え方が変わる、著者の「企み」にあふれた構成になっています。
すべてを読み終わったとき、著者・朝井リョウの「企み」に鳥肌が立ちました。
それぞれの人物が、「何者かになる前の自分」と「理想の自分」の間で揺れる心理描写は、自分の若い頃を思い出してしまうくらい現実的で、ありふれた内容。だからこそ、自分の物語のように感じて心に響く人が多いのではではないでしょうか。
そして登場人物に親しみを覚え始めた瞬間、著者の「企み」により、物語の見え方は180度変化します。この、「噓でしょ?!」という驚きで、すべて読み終わった後、もう一度初めから読み返してしまうくらい、魅力的な作品でした。
『累々』と『死にがいを求めて生きているの』は、いずれも著者の「企み」が冴えわたる物語。
共通して、若者の複雑な心理描写をサラッとした読み味で表現しており、するすると読み進めることができます。
『累々』は、それぞれの章が恋愛小説単体として面白いだけではなく、巧妙に仕掛けられた「企み」により、すべて読み終わったあとに読み返したくなる、という構成が楽しめる1冊でした。同じく、『死にがいを求めて生きているの』も、若者の葛藤を描いた青春小説としての面白さに、「企み」を含んだ構成が楽しめます。
「そういうことか!」という感覚を、もう一度味わいたい人におすすめです。
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