あらすじ
服従は人間社会で一般的にみられる現象です。職場でも、部下は上司の指示・命令に従っていますね。 そして、時に人間は非人道的な命令にも従ってしまいます。その最たる例がナチスのユダヤ人虐殺です。
本書はこの素朴な疑問を科学的に検証するために行った前代未聞の実験結果のレポートです。 実験は、先生役と生徒役に分かれて行われます。先生役は生徒役に問題を出し、生徒役が誤答するとスイッチを押すよう実験の主催者から指示されます。スイッチが押されると、生徒役が座っている椅子に電流が流れる仕組みになっています。そして、電流は誤答の度に強さを増します。
実験結果は驚くべきことに、ほとんどの先生役が生徒役の人に最大強度の電流を流すまで実験を中断しませんでした。 言い換えれば、生徒役の苦悶の声よりも、主催者の指示に従うという実験結果になったということです。 この実験はパターンを様々に変えて行われますが、いずれも人は権威に服従するという結果になりました。
著者はこの実験結果と、実験後に行った被験者へのアンケートを元に、人間が権威に服従するのは、人間社会においてヒエラルキーが生存に有利だったためと分析します。人は生まれながらに服従能力を持っており、それが社会からの影響と相互作用により肯定され、服従的な人が完成すると結論づけます。 この事実は、善良な一般市民でも服従能力により残虐な行いをしうることを示唆しており、自分の意志を強く持つ大切さを差し迫った事実として気づかせてくれます。
次に読む本
戦争における「人殺し」の心理学(デーヴ・グロスマン)(訳:安原 和見)
人間は同類である「人間」を殺す事に生まれつき強烈な抵抗感を持っていると言われます。 そんな事は当たり前だと私たちは思っています。 しかし、ここで本書はある問いを私たちに提示します。
戦争において、兵士が敵の兵士を殺すことも当たり前だと思っていないか、と。
確かに、第二次世界大戦までは15~20%の兵士しか発砲しなかったという報告もあります。 しかし、ベトナム戦争では90%以上の兵士が発砲しています。 この背景には、ベトナム戦争に送り出された兵士には「条件付け」や「プログラミング」といった人間を人間と認識する前に引き金を引く訓練が施されていたと本書は解説します。 これらの兵士は、社会の判断を信頼し訓練を受け、殺傷能力を与えられましたが、その行動自体の倫理的・社会的な重荷に対処する能力を与えられなかったため、帰還後、40万人を越えるアメリカ兵士がPTSDに苦しんでいるといわれています。 残虐な行為をした兵士もまた社会の被害者であり、戦争の代償を今一度考えさせられる一冊でした。
私たちは一般的に自分の正義感に従い行動できると思っています。しかし、「服従の心理」を読んで分かる通り私たちはいとも簡単に権威に従い自分の正義の声に対して耳を塞いでしまいます。これは人間が長い歴史で獲得した能力であり、この能力により組織的にプロジェクトを進め、発展してきた反面、戦争のように悪用されることもありました。 まずはその現実に「服従の心理」によって気づき、次に「戦争における「人殺し」の心理学」を読むことで、非道な権威に従った後、自分の正義の声や、社会からの批判に耐えかね壊れていく兵士の様子を決して他人事とは思えなくなるはずです。 私たちはヒエラルキーに組み込まれているさなかでも、自分の正義の声に耳を傾ける勇気を忘れてはならないと思える2冊でした。
コメントを残す